「腹を切る切る詐欺」細川幽斎の、ためになる保身術

日本中世史講義 戦国ななめ読み(その3)@早稲田大学エクステンションセンター

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幽斎は実条に古今伝授をする前に、田辺城に籠城した。そして朝廷から、停戦命令が届き、田辺城は開城する。幽斎の降伏が認められ、幽斎も城兵も命を失うことはなかった。

 

幽斎の冴えわたるネゴシエーション

「思うに幽斎は、ぜったい企んでいた。いったん事あれば、この古今伝授ネタを使おう、と。しかもこの時、古今伝授が途絶えることを恐れた朝廷側が停戦命令を出したことになっているけれど、僕は幽斎のほうから動いたのじゃないかと思ってる。『俺、死んじゃうと古今伝授絶えちゃうけど、いいのかな~?』という感じの情報を朝廷に飛ばしたんだと思うね。そこで朝廷もびっくりして、『幽斎を殺すな。すぐに戦いを止めろ』という命令を出した。

おもしろいことに、城を攻めている側にも古今伝授の関係者がいるんだよね。それが前田茂勝。この茂勝の姉妹が、古今伝授を受ける第一候補の実条さんの奥さん。これって完全に出来レースでしょう? 前田茂勝は西軍についたのに、家康に本領を安堵されてるし。

幽斎のさらにズルいところは、朝廷からの提案にすぐには飛びつかないところ。朝廷から停戦命令が出ても、しれっと『私は武士ですから自害します』なんて、いけしゃあしゃあと言う。表向きは、『武士の名誉を守らねばならない……』とか何とか言いながら、結局生き残るわけですよ」

いるいる、そういう人。何かと「もう引退だな」とか「後進に道を譲る」とか言いながら、「俺がいないとこの案件どうなるのかな~」なんてつぶやいたりする人。しかもその人質案件が唯一無二の重大なものだったりすれば、安泰度はぐーんと上がる。しかし、そのカードも何回も切ると価値が下がる。幽斎はそのカードを、これ以上はないタイミングで切ったわけである。しかもこれは、家康に恩を売ることにもつながったらしい。

幽斎が1万からの西軍の将兵を田辺城にひきつけたことは、東軍にとって間違いなく大手柄だった、と本郷先生は語る。もしそれだけの軍勢が関ヶ原に行っていたら、戦いの様相は変わったかもしれない、という。幽斎がそこまで計算したかどうかはわからないが、戦わずして成果をあげたことは間違いない。

しかし、これで収まらないのが、頭のイカれた忠興である。

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