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「日立の樹」、高さ25m横幅40mで倒れぬ理由

「日立の樹」で知られるモンキーポッド

わたしたちの樹木についての常識を覆していく、東京農業大学の「樹木の形を読みとく」講座(前の記事「森で迷ったら年輪を見ろ!は危険、木の生態を知る」)。今回は針葉樹と広葉樹ではどうしてあんなに形が違うのか、に迫る。

木のてっぺんからホルモンが

杉林やヒノキ林を歩いていると、天に向かってひたすらに伸びていく姿に清々しさを覚える。一方、『この樹なんの樹』という歌詞で知られる日立グループのテレビCMに登場する「日立の樹」。高さ25mに対して幅は40mという大きく横に広がる雄姿にも圧倒される。

一方はただひたすら縦にシュッと伸び、一方はこんもりと横に広がる。それが針葉樹と広葉樹の特色のひとつだ。いったいそれはなぜなのか。東京農業大学オープンカレッジ「樹木の形を読みとく」の講座で、同大非常勤講師でNPO法人樹木生態研究会代表の堀大才先生が語るのは、知られざる樹木の生態だ。

杉やヒノキなどの針葉樹は幹が一本ずっと上まで立ち上がり、はっきりと枝と区別がつきますよね。でも、桜や梅などの広葉樹は、途中から幹だか枝だかわからなくなってきますよね。それはなぜだと思いますか?」(堀先生、以下「」内同)

桜などの広葉樹は途中から幹と枝の区別がつかなくなる

堀先生によれば、木にはもともと、先に伸びよう伸びようという性質がある。これをコントロールしているのが、オーキシンという植物ホルモンで、木のてっぺんで生産されている。これが生産されている間は、枝は幹になれないのだという。

木のてっぺんを切ると、オーキシンが下りてこなくなり、切ったすぐそばの枝が我こそ新たな幹になろうと、成長を始めます。樹木の頂芽がさかんに伸びているとき、側芽(そくが)の成長は抑制される。この性質を“頂芽優勢(ちょうがゆうせい)”といいます

広葉樹の場合、この頂芽優勢という現象が、てっぺんを切らなくても自然に途中で弱まるものが多いという。

広葉樹も最初のうちは幹が立ち上がっていきます。しかし途中で(多くの場合5~6mくらいで)頂芽優勢が弱くなっていきます。そして、今度はサイトカイニンという植物ホルモンの影響が強くなります。サイトカイニンが増えてくると枝たちが、さあ幹になるぞとたくさん伸びてきます。その結果、途中から枝と幹の区別がつかない樹形になっていくのです

なるほど。広葉樹では「我も我も」と枝たちが主張するから、こんもりになるのだ。堀先生によれば、この枝の成長の違いが、根の張り方にも影響しているという。

東京農業大学非常勤講師の堀大才先生

大きく横に枝を広げる木というと、ハワイにある、樹齢120年、樹高25m、樹冠(じゅかん、枝葉が茂っている部分)40mの “日立の木”が 思い浮かぶ。

“日立の樹” はモンキーポッドという名の南米原産の木で、ものすごく横に広がる木です。私も昔、台湾で、樹高20m、樹冠54mのクスノキを見たことがあります。真上から太陽があたる環境下だと、大きく広がるんです

横幅が高さの3倍とは。どうして倒れないで立っていられるのだろうか。

広葉樹をよく見ると、枝が横向きや、場合によっては下を向いているものもありますよね。あれはなぜだと思いますか?」と堀先生。

横に伸びるのは、できるだけたくさん光を受けて光合成を盛んにしようとするから? でもそれだけでは下に向く枝もあることが説明できない……。堀先生はやじろべえを例に、その理由を説明する。

やじろべえは左右両端の先端が低く垂れさがっていますよね。重心が低いほうが安定するからです。木も風でひっくり返らないように、周囲の枝を下に向けて発達させ、力学的に自分を安定させているんです。そして、木を地面に安定させる最大の役割を負っている根も、広葉樹は針葉樹よりも深く広く発達しています。吹き付ける風に対して、より強い構造となっています

堀先生によれば、世界的に見ても背の高い木は針葉樹が多く、世界一高い木として有名なセコイア(センペルセコイア)には100mを越えるものが数多くあるという。

ヒノキや杉がよい材木になるワケは

針葉樹は頂芽優勢が強いものが多く、広葉樹のように枝分かれしにくく、幹がはっきりしていて、真っ直ぐに伸びる性質から長い柱を得やすい。だから針葉樹が材木として重用されるのだという。

木が森の中に密に生えれば、何が起きると思いますか? 光獲得競争です。森の中で生き残るためには、上に上に成長するしかない。光の当たらない枝は落として、上へ上へと成長する。だから枝は上の方にしかなく、幹はあまり太ることができずに細長い形になります。これが森林内で起こる現象です。

枝葉が光合成をして光合成産物をつくると、まずそれを枝自身のために使います。そして余った分を幹に送り、そして幹から根に送る。だから幹のどこが一番太くなるかというと、枝を支えているすぐ下の部分です。枝のついていない部分の幹は太くなりません。さらに植林された杉やヒノキは枝打ちをして下枝をなくします。こうして下から上まで真っ直ぐ同じような太さで成長させた杉やヒノキは、材木として重宝されるのです。また、枝ができるとそこに節(ふし)ができます。節がないほうが材木にするには都合がよいのです

マツ科モミ属の常緑針葉樹オオシラビソ

(続く)

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取材講座:「樹木の形を読みとく」(東京農業大学オープンカレッジ・世田谷キャンパス)

文/まなナビ編集室 写真/SVD(樹木)、(c)denebola_h / fotolia