どんなオリンピックにするかは議論されていない
寺島善一先生(明治大学名誉教授)は語る。
「私がこの講座(2020年東京五輪を考える―オリンピックの歴史・思想と現実の諸問題―)を立ち上げたのは半年前で、ちょうど施設問題で論争が起こっているところでした。いまだに最大7500億円の経費負担をめぐる国・都・組織委員会の調整は最終的についていません(注:講義当日の状況)。
そうした報道を見ていて私が一番気になるのは、どんなオリンピックを東京で立ち上げるのか、がほとんど議論されていないことです。そこで皆さんとオリンピックの理念について考えたいと、この講座を始めたのです」(同講座で解説されたオリンピックの歴史についてはこちらを参照)
近代オリンピックの理念は以下の6点に集約される。
(1) より高き峰を目指して努力すること(卓越性)
(2) 教育としてのスポーツであること
(3) 文化交流の促進
(4) 多くの人の参加
(5) フェアプレイの精神を涵養(かんよう)する
(6) 国際相互理解の促進
これらオリンピックの理念は「オリンピック憲章(チャーター)」としてまとめられている。また、理念を象徴する「近代オリンピックの父」ピエール・ド・クーベルタン男爵のメッセージが、1932年のロサンゼルス大会に掲げられた。それは以下のものである。
オリンピックゲームにおいて最も大切なことは、勝つことではなくて、参加することである。人生において最も大切なことは、勝利することではなく、努力することであるように。名声を得ることではなく、よりよく生きることであるように。
大事なのは勝利することではなく、努力すること
「『オリンピックは参加することに意義がある』とよく言われますが、その元になったのが、このメッセージです。ただし、あまり知られていませんが、その後に、さらに重要な内容が続きます。大事なのは勝利することではなく、努力することなのだと。これこそがオリンピックの理念なんですね。
ちなみにこれはクーベルタン自身が考えた言葉ではありません。英国ロンドンのセントポール大寺院のペンシルバニア司教が説いた言葉をクーベルタンが聞いて感銘を受け、オリンピックのモットーとしたのです」