なぜ米大統領選、英EU離脱は予測が大外れしたのか

井田正道明治大学政治経済学部教授による世論調査の見方(その3)@明治大学リバティアカデミー

「世論調査って当てにならないよね」──そう囁かれ始めたのが、昨年のイギリスのEU離脱の是非を問う国民投票と、アメリカの大統領選だ。事前予測を覆して、イギリスはEUを離脱し、アメリカはトランプ大統領が当選した。2016年は世論調査敗北の年とも言われる。しかし、明治大学リバティアカデミーで「予測は何を当て、何を外すのか?――世論調査の展開と現在」講座講師を務める明治大学政治経済学部教授(政治学)の井田正道先生は、これは誤差の範囲内であったと語る。

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「世論調査って当てにならないよね」──そう囁かれ始めたのが、昨年のイギリスのEU離脱の是非を問う国民投票と、アメリカの大統領選だ。事前予測を覆して、イギリスはEUを離脱し、アメリカはトランプ大統領が当選した。2016年は世論調査敗北の年とも言われる。しかし、明治大学リバティアカデミーで「予測は何を当て、何を外すのか?――世論調査の展開と現在」講座講師を務める明治大学政治経済学部教授(政治学)の井田正道先生は、これは誤差の範囲内であったと語る。

イギリスの国民投票の予測が外れた原因は

「選挙予測が当たったか当たらなかったかは人によって捉え方が違う」と井田先生は言う。つまり、〇〇党が勝つ、と予測され、結果として〇〇党は確かに第一党にはなったが思ったほど議席が取れなかった、こういうケースでは、事前予測が当たったとする人と外れたとする人、両方が出る。ここに講座タイトルにもなっている「予測は何を当て、何を外すのか?」の難しさがあるのだという。

しかし、単純な二択の場合は別だ。それが2016年のイギリスのEU離脱の是非を問う国民投票と、アメリカの大統領選だった。EU離脱か残留か、クリントンかトランプか、2つに1つしかない。それが両方とも予測が外れ、世界は衝撃を受けたという。

ここで注目したいのが、前回の記事「3000が1000万に勝った、量より質の世論調査」でも解説した、〈誤差〉と〈投票率の読み〉である。

まずイギリスのEU離脱の是非を問う国民投票から井田先生は解説を始めた。

「国民投票直前の世論調査の平均値では残留派52%で、離脱派48%でした。ところが結果はみごとに逆転し、離脱派52%、残留派48%となり、EU離脱が決定してしまったのです。そのひとつの理由に〈誤差〉がありました」

前回の記事「3000が1000万に勝った、量より質の世論調査」にもあるように、誤差は50%のところで最大となる。たとえば世論調査のサンプル数が1000の時、支持率が30%であれば誤差は2.8%だが、支持率が50%だと3.1%が誤差となる。52:48といった拮抗した状態であれば、世論調査のサンプル数にもよるが、±2%はもはや誤差の範囲内だというのである。

さらに選挙の場合、もう一つ問題がある。それが〈投票率の読み違い〉である。問題なのは、世論調査では投票に行くと答えながら、実際には投票に行かない人が多いことだ。

だいたい世論調査の投票率と、実際の投票率の間には、20%~30%の開きがあるという。つまり、投票に行くと答え支持政党を回答する人の3~4人に1人は、行くと答えておきながら実際には投票に行かないのだ。これが選挙結果に影響を与えるという。

「イギリスのEU離脱の国民投票の時には、年代別に傾向が違い、若い人に残留派が多かったんですが、若い人の投票率が予想以上に低かったんです。若い人がもっと投票に行っていれば結果は違ったはずです。これを読み切れなかったということが指摘されています」

“LV”の存在と誤差により逆転したアメリカ大統領選

この〈誤差〉と〈投票率の読み違い〉がアメリカ大統領選にも影響を与えたという。

アメリカの世論についての報道は主に“Real Clear Politics(RCP)”を参照しているという。下がRCPのヒラリー・クリントン氏(グラフ中、青)とドナルド・トランプ氏(同赤)の支持率の推移である。このRCPの数字を見て「クリントン氏リードを広げる」「トランプ氏差を縮める」などの報道がされているという。

ともに“Real Clear Politics(RCP)”より

RCPのすごいところは、ひとつの世論調査に拠らず、いろいろな世論調査を集めている点だという。

「上の表を見てわかるように、すべての週でクリントン氏は有利でした。sampleのところにある“LV”とは何かというと、ライクリー・ボーター(Likely Voters)、 行く見込みのある人のことです。選挙の予測で一番難しいのは、本当に投票に行くかどうかを見極めることなのです。また、差が開いているように見えますがたかだか3%くらいしかありません。これも先ほどのイギリスの国民投票と同じく誤差の範囲内です」

全米世論調査協会の報告書が示す3つのポイント

この選挙予測について、最近、全米世論調査協会の報告書が出たという。そこには次の3つの点が指摘されていたという。

(1)民主党の支持基盤の州で、選挙戦最終盤まで投票先を決めていなかった有権者がトランプ支持に向かっていた流れを把握できていなかったこと。
(2)低学歴層の支持傾向が変化していたこと。
(3)民主党支持傾向が強い黒人の投票率低下を読みきれていなかった傾向があること。

とくに(3)の黒人の投票率について、井田先生は次のように語る。

「黒人は民主党支持傾向が強いのですが、その投票率低下をクリントン陣営は読み切れていなかった可能性があります。長年、白人のほうが投票率が高かったんですが、オバマ前大統領が2012年に再選された時には黒人の投票率が白人を上回ったんですね。それで、黒人はかなり選挙に参加するように変わったのだと思っていたんです。黒人のトランプ支持率は3%しかなく、9割方は民主党支持です。しかし、その投票率を読み違えた。そうしたいくつもの読み違えが出てくるのが選挙なのだ、ということです」

選挙は最終盤の読みが最も難しい

「日本でも最終盤の読みというのは一番難しい。日本でもっとも予測が外れたのが、1998年の第18回参議院議員通常選挙でした。自民党のその時の改選議席は60議席くらいだったんですが、蓋を開けたら44議席しか取れなかった。その時に読み違えたのが投票率です。

1995年には44.5%しかなかったので50%弱で各社読んでいたんですが、実際には58~59%いってしまった。投票率の読みが外れたんです。なぜ外れたかというと、その時から投票時間が18時から20時に延長され、投票に行きやすくなったんです。その効果を過小評価してしまい、増えた投票者が野党に行き、惨敗の責任を取って、時の橋本龍太郎政権は退陣しました」

知れば知るほど面白い選挙の話。大学でしか聞けないこのような深く詳しい講座が開催されていることをもっと多くの人に知ってもらいたいと切に思う。

(了)

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◆取材講座:「予測は何を当て、何を外すのか?」第1回「世論調査の展開と現在」(明治大学リバティアカデミー)

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取材・文/まなナビ編集室(土肥元子)

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