【白内障手術】痛い? 手術中は見える? リスクは?  

白内障、よく聞く話のホントのところ(その3)@杏林大学医学部付属病院

長生きすれば100%発症するという白内障。見えにくさを解消するには手術しかないが、眼を手術することに躊躇を覚える人も多いことだろう。「痛いの?」「麻酔は?」「手術中は見えるの?」「安全だと聞いたけど失敗はないの?」──そこで杏林大学医学部付属病院で開かれた公開講座「白内障、よく聞く話のホントのところ」で柳沼重晴先生に訊いた。

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長生きすれば100%発症するという白内障。見えにくさを解消するには手術しかないが、眼を手術することに躊躇を覚える人も多いことだろう。「痛いの?」「麻酔は?」「手術中は見えるの?」「安全だと聞いたけど失敗はないの?」──そこで杏林大学医学部付属病院で開かれた公開講座「白内障、よく聞く話のホントのところ」で柳沼重晴先生に訊いた。

白内障で手術する水晶体とは?

白内障は主に加齢によって、水晶体が混濁して見えにくくなるものだ。どのような症状があるかは「早ければ40代、60代で8割!白内障のサイン4つ」をお読みいただきたい。

白内障手術とはどのようなものなのかどんなリスクがあるのかを知るためには、眼の構造を知らなければならない。柳沼先生の講義は、眼の構造の解説から始まった。

眼の構造 (c)Fotolia

「光はまず角膜に入ります。これは透明な組織で、その奥に私たちが瞳(ひとみ)と呼んでいる瞳孔(どうこう)があります。瞳孔のすぐ後ろにあるのが水晶体です。これはいわばレンズです。

水晶体を通った光は、眼の奥の壁にある網膜にその像を映します。網膜は神経が集まった膜で、いわばスクリーンです。その情報は視神経乳頭という場所から脳へと伝わり、脳は、この像は〇〇である、と認識します。これが『見る』ということです。

白内障は水晶体が濁る症状です。水晶体は眼鏡のレンズのように、光を屈折させて網膜に映す働きと、ピントを合わせる働きをしています。水晶体は遠くを見るときは薄く、近くを見るときは厚くなってピント調節をしますが、この機能が弱ってくるのを『老眼』といいます。

水晶体は薄く透明な袋に包まれています。この袋を『水晶体嚢(すいしょうたいのう)』と言います。この水晶体嚢が茶目(虹彩)の部分とは繊維(チン小帯)でつながっていて、繊維と水晶体嚢が水晶体を支えています。

この水晶体嚢はそのままにして、中の水晶体だけを取り出し、代わりに眼内レンズを入れるのが白内障手術です」
(関連記事「眼内レンズはどう選ぶ?取り換えは可能?」)

さまざまな白内障

白内障のタイプは、水晶体の濁る部位によって違う。

皮質白内障 水晶体の端の皮質から濁りが生じ始める。水晶体の中心に到達するのに何年もかかるので、症状が出るのに時間がかかる。まぶしさや視力低下が起こりやすい。

核白内障 水晶体の中心部(核)から茶色く濁ってくる。濁るにつれて中心部も硬くなっていくので、レンズの屈折率が高くなり、近視が強くなり近くが見えやすくなる。色の見え方もおかしくなっていく。

前嚢下白内障・後嚢下白内障 水晶体嚢の近くで濁りが発生する。視力に影響しやすい。

こうした白内障を放置していると、成熟白内障になる。物が判別できないどころか光も感じにくくなり、手術も大変になる。

実際には、これらがミックスされた形で症状が出るので、白内障は人によって自覚症状が違うし、右眼・左眼でも違う

どういう手術をするのか

水晶体の濁りを取ることはできないので、濁った水晶体を取り去り、眼内レンズを入れることになる。この時、大切な役割を果たすのが、水晶体が入っていた水晶体嚢だ。

「白内障手術では、水晶体嚢から水晶体だけを取り出し、嚢は残しておき、その中に眼内レンズを入れます。

まず眼の中にヒアルロン酸のジェルを入れて作業スペースを作ります。水晶体嚢の厚さはわずか1㎜以下。それに穴を開ける時が最も緊張します。

レンズは直径が6㎜ありますが、丸めて中に入れるので6㎜も切開しません。小さな穴をあけて中の水晶体をまず2分割、4分割して小さくしていき、超音波で振動させて乳化させ、吸引していきます。

空っぽになった透明な嚢のなかに直径6㎜のレンズを丸めて入れると、中でぶわっと開いていきます。ヒアルロン酸を抜き、炎症止めの薬を結膜に注射して終わりです。黒目の傷口は自然に閉じていくので縫いません」

講座では実際の手術の動画が柳沼先生のライブ解説付きで8分間流された。めったに見られない手術映像に、360人もが詰めかけた会場は話し声ひとつせず、皆が食い入るようにスクリーンを見つめていた。

手術で血はほとんど出ない。時間も10分とかからない。直径わずか1センチの黒目を舞台に、驚くほど手際よく手術が進められていくのが映像から見てとれた。

「手術は痛い?」手術を受ける前に訊きたい疑問

手術について誰もが思うのが、「どんな麻酔をするのか」「眼は痛くないのか」「手術中は見えるのか」「入院したほうがよいのか」といったことだろう。

「手術中は、眼だけに局所麻酔をします。基本は目薬による点眼麻酔+結膜下麻酔で、白目にちょっと麻酔をします。安静が保てない認知症の方などの場合には全身麻酔をしますが、全身麻酔は体に負担がかかってリスクが高いので、できるだけ局所麻酔で対応します。

また、痛くはありません。ただあまりに力むと逆に痛みを感じたりしますので、難しいでしょうが、なるべく力を抜いていてください

手術の時は、体を動かしたり眼をキョロキョロさせるのが一番危ないんです。眼をキョロキョロさせないのにはコツがあります。手術時にはまぶしいライトが目に当たりますが、その一番まぶしいところが手術をするのに一番やりやすいところなので、そのまぶしいライトをぼんやり見ていてください。まぶしいのはそのうち慣れます。

また、手術の時に『上見てください』『下見てください』というが、その時に眼だけ動かして顔は動かさないようにしてください。局所麻酔なので話せますから、『咳が出る』『痛い』『くしゃみが出る』などのことがあれば、どうぞ話してください。ただこちらが『痛いですか?』と聞いた時、うなずいたりしないようにしてくださいね。

手術中も何かが見えています。水晶体を取り去る時は、オーロラが見えた、とか、万華鏡が見えた、とか言われることがありますね。眼内レンズが入ると、またかわった世界が見えるようになります。

入院したほうがよいかどうかもよく尋ねられますが、手術当日付き添いの方が確保できて、翌日診察に来院できる距離なのであれば、日帰りで十分です。ただし、高齢や体が不自由で移動が困難だったり、付き添いがいない場合、また、手術の難易度が高くて合併症が起こる場合などは入院したほうが無難でしょう」

知っておきたい手術のリスク

白内障手術は安全性の高い手術ではあるが、リスクがゼロというわけではない。また、手術後の自己管理がとても大切だ。

そこで、柳沼先生はリスクも含めてきちんと説明することにしているという。その方が術後の点眼などをきちんと行ってくれるからだ。

手術中に起こる合併症としては次のものがある。

チン小帯脆弱・断裂 茶目と水晶体嚢をつないでいる組織「チン小帯」が弱く、水晶体が目の中でグラグラしている状態になってしまう。眼内レンズが入れられない可能性が出てくる。

後嚢破損 水晶体嚢が破れ、水晶体が落下してしまう。眼内レンズが入れられない可能性が出てくる。

駆逐性出血 急激な圧変化が起きて目の奥の血管が切れてしまい、大出血してしまう。予後は非常に悪い。傷口が大きかった昔の手術では 重篤な合併症であった。 

以上が手術中に起こる合併症だが、術後に起こる合併症も非常に怖い。

術後虹彩炎・術後高眼圧 術後は必ず目が腫れて炎症が起こる。それにより眼圧も高くなる。これが術後虹彩炎と術後高眼圧だ。

術後感染性眼内炎 眼内に細菌が入って感染する合併症で、眼が膿みだらけになりつぶれてしまうことがある。

列抗原性網膜剥離 まれに網膜に穴が開いて、はがれてしまうことがある。手術が必要になる。

嚢胞性黄斑浮腫 神経の集まっている黄斑の部分にむくみが出て視力が上がらないことがある。術後の目薬で予防できる。

水疱性角膜症 白内障手術をすると、かならず角膜内皮細胞が減少する。そのダメージがあまりに大きいと、黒目が白く濁り、角膜移植術が必要になる。

また、後発白内障といって、レンズを入れる嚢が白く濁ってしまうことがある。これといった原因はなく、手術した人の10~20%に起こる。これは外来によるレーザー治療で治る。

術後の自己管理は指示通りに。感染したら一大事

手術後は眼帯をするので、もう片方の目しか見えなくなる。そのため日帰り手術の場合、付き添いが必要になる。この眼帯は翌日の診察後は昼間はつけなくてよいが、寝る時にうっかり目を触ってしまわないように術後1週間は眼帯をつけて寝る

とにかく肝要なのは術後の細菌感染を起こさないこと。水から感染することもあるので、術後1週間後の診察まで、洗顔も厳禁だ。

また、指示されたとおりに目薬を差さなければならない

杏林大学病院では3種類の目薬を出す。感染を予防する抗菌点眼薬、炎症を抑えるステロイド点眼薬、同じく炎症を抑える非ステロイド抗炎症点眼薬だ。

術後1か月はこれら3種類の目薬を、朝・昼・晩・就寝前の1日計4回点眼する。その後2か月は、非ステロイド抗炎症点眼薬を1日2回点眼する。要するに3か月間しっかり目薬を差しつづけなければならない。

高齢や体が不自由で自分で目薬が差せない場合は、かならず介護者に差してもらわなければならない。

術後、視力が安定するのは?

手術直後からくっきりは見えるが、見え方も術後の炎症次第なので、個人差がある。視力が落ち着くには術後およそ1か月くらいかかる。また、眼の中に病気がある人は見え方に限界があるという。

眼鏡は視力が落ち着いてから作るので、免許の更新前に白内障手術を予定している人は、その期間も考慮に入れておいたほうがよいだろう。

さて、白内障手術後の悲しい話として、柳沼先生はこう語った。

「白内障手術をすると、今まで見えなかったものが見えるので、見えなくてもよかったものも見えてしまいます。たとえばしわがくっきり。お部屋のゴミもはっきり。飛蚊症があった方は増えたように感じるでしょう。白内障の濁りを通して見ていた時は気にならなかったものがクリアに見えてしまいます。

でもそれを補って余りあるほど、きれいなものがたくさん見えるようになるのが白内障手術です」

(次回は「怖ろしい急性緑内障発作。白内障手術で防げるのはなぜ」)

〔あわせて読みたい〕
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柳沼重晴
やぎぬま・しげはる 杏林大学医学部眼科学教室助教。2004年杏林大学医学部卒業。専門は水晶体、眼窩、眼瞼、涙道。

◆取材講座:「白内障、よく聞く話のホントのところ」(杏林大学医学部付属病院 )

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文/まなナビ編集室 医療・健康問題取材チーム 写真/杏林大学医学部付属病院提供、fotolia

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