バニラ・エアに事前連絡したが乗れなかった車いす女性

格安航空会社「バニラ・エア」の大阪~奄美大島便で、車いす利用者の男性が車いすに乗った状態での搭乗を許可されず、タラップを腕を使って上った件が大きく報道された。じつは一か月前、車いすを使用する障がい者で、事前申告した結果、搭乗できなかった人がいる。今回の件ですでにバニラ・エアは階段昇降機の導入などの対応を発表しているが、それで終わらせてよい問題なのか。問題の根を掘り下げて考えてみたい。

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車いす

車いすで移動することの不便さを知ることで社会は変わる(写真はイメージ)

格安航空会社「バニラ・エア」の大阪~奄美大島便で、車いす利用者の男性が車いすに乗った状態での搭乗を許可されず、タラップを腕を使って上った件が大きく報道された。じつは一か月前、車いすを使用する障がい者で、事前申告した結果、搭乗できなかった人がいる。今回の件ですでにバニラ・エアは階段昇降機の導入などの対応を発表しているが、それで終わらせてよい問題なのか。問題の根を掘り下げて考えてみたい。

介助者が補助するのでないなら搭乗できない、と

バニラ・エアでは以前より、「お手伝いが必要なお客様」が搭乗する際には「5営業日前までに予約センターに」知らせるよう「ご利用ガイド」に明記しており、車いすの利用者もその対象となっている。今回の報道を受け、バニラ・エアは、車いすの方の搭乗には事前のFAXをお願いしていると述べた。ネットでは、その事前申告をしなかった車いす男性への非難も出ているようだ。では、事前申告すればよかったのかというと、事前申告すると断られてしまっていた。

先月、記者は、障がい女子のためのフリーペーパー「Co-Co Life☆女子部」の取材に同行した。行き先は、今回問題となっている奄美大島だ。

読者モデル2名とカメラマン、介助者と記者の5名で奄美大島にあるダイビング施設でアクア・アクティビティ体験をレポートする取材だった。そのうち1名は重度の障がいがあり、電動車いすを利用している。ここではPさんとしよう。

Pさんは近畿在住のため関西国際空港から奄美大島に向かう予定で、Pさんの母親がバニラ・エアのチケットを購入した。搭乗の3週間前、Pさんの母親はバニラ・エアの規定に基づき、車いす利用であることを電話で連絡した。ところが「介助者が補助するなどして階段を昇降できないと搭乗を許可できない」と告げられたのである。

介助者はPさんの母親だ。1人ではとうてい大人ひとりを担いで階段を昇降することはできない。バニラ・エアは安全上の問題から、スタッフが手助けすることもできないという。ほかの空港からの乗り継ぎ便などを探したが、車いすでの公共機関の移動は時間の予測がつかないことが多い。移動時間、金額、航空会社への連絡と、あまりに乗り越えるべきハードルが高く、結局、Pさんと母親は泣く泣く参加をあきらめることになった。

Pさんは30名を超す読者モデル応募者の中から選ばれた。雑誌に載るチャンスだと、何を着ようか、どんな水着にしようかと心から楽しみにしていた矢先のことだ。どれほど失望したか、想像するだけでも胸が痛む。障がい者でもアクア・アクティビティに参加できる完全バリアフリーの施設が奄美大島にある。しかしアクティビティどころか、その施設にまずたどり着くことができなかったのだ。

介助者がいても自立歩行できないなら搭乗できない、と

急遽、代わりの読者モデルを依頼することになった。Qさんとしよう。Qさんは関東在住で、夫が介助をするという。先のPさんが、介助者が補助するなら搭乗できると言われたのなら、夫が担げば問題ないはずだ。

バニラ・エアの成田空港発、奄美大島行きのチケットを取り、同じように規定に従って電話を入れると、「自立歩行ができなければ搭乗できない」と言われ、搭乗をあきらめた。

Qさんの夫は「Qを担いで移動することはよくある、問題ない」と言っていた。現場まで行ってしまえばなんとかなるだろう、このまま黙ってチケットを買ってしまいたいと何度思っただろうか。

Qさん夫妻は急遽、JALを利用して奄美大島へ向かった。かかった料金は当初予定の4倍強となった。

成田ではボーディングブリッジで搭乗できる可能性が

じつはPさんが車いすでの搭乗を断られた後、記者はバニラ・エアのカスタマー・サポートに連絡をとっている。それに対し、同社からはお詫びをされたうえで、客の希望時期の関西空港/奄美大島便は他社便との兼ね合いもあるため、奄美空港でのボーディングブリッジの使用ができないことが決定している旨の返答があった。同社としてはこれが不便であることは理解しつつも、今回の男性の件と同様に、オープンスポットでの階段を利用した搭乗・降機をお願いしていること、また、介助者が彼女を背負って階段を上ることは、安全上容認できないと判断していることについても記されていた。

また、検討策として、成田空港便については、ボーディングブリッジでの搭乗案内が可能であること(当日の運行状況によっては成田便に関しても階段での搭乗・降機に変更する可能性があるとの但し書き付きで)を伝えられた。

しかしQさんのケースでは、事前連絡をすると成田空港発便でも搭乗が許可されなかった。実際はどうだったのか。

記者は健常者のため、成田から奄美大島までバニラ・エアを利用した。その結果、往路も復路も成田便はボーディングブリッジでの移動だった。Qさんは前もって連絡しなければ成田便では搭乗できた可能性がある。もちろん、当日の運航状況、天候によっては、成田便に関しても階段での搭乗・降機に変更する可能性があり、100%搭乗できたかどうかはわからないが。

6月28日付毎日新聞報道によれば、バニラ・エアは、関空-奄美線では自力で歩けない車椅子のお客さまから事前に連絡があった際には搭乗をお断りしていたと述べている。

「100%確実に」の壁が障がい者の選択肢を狭める

この報道がされる前は、自分で連絡して搭乗を断られるということを経験するまで、車いす利用者は事前連絡をすれば断られるのだということが知られていなかった。Co-Co Life☆女子部がPさんに依頼をした時にも、LCC(ロー・コスト・キャリア)だからといって車いす未対応などとは思いもしなかった。編集部はその責任を痛感しており、弁護士にも相談したが「障害者差別解消法にある合理的配慮には強制力がないため、違反には当たらない」との回答だった。

だから、障がい者の中には、あえて事前連絡をしないという人がいる。障がい者の側で、介助者をつけたりして環境を整える努力をしても、できる可能性が100%でないと、許可されないことが多いのだ。カスタマーサポートからの返答に「成田空港便については、ボーディングブリッジでの搭乗案内が可能」とあったが、その可能性が100%でない限り、障がい者はそのサービスを利用できないことがままある。そこが健常者との大きな違いである。しかし、100%確実に、ということが世の中にどれほどあるだろうか。

バニラ・エアは本サイトの取材に対して、以下のように答えた。

「私どもでは、搭乗橋が使用できない駐機場(以下、オープンスポット)でタラップ車を使用する際には、お付き添いのお客様のお手伝いのもとで階段の昇降が可能かどうかを確認させていただいており、ご搭乗いただいております。しかしながら、お手伝いがあっても階段昇降が困難である場合には、ご不便をおかけしてまいりました。
奄美空港では、6月14日にアシストストレッチャーを導入し、6月29日より電動式階段昇降機の使用を開始させていただき、オープンスポットでのタラップ車使用時でも車椅子ご利用のお客様に、ご不便をおかけすることなく安全・安心にご搭乗いただけるよう、設備を整えました。今回、記事となった木島様の件も含め、お客様にご不便をおかけ致しましたこと、深くお詫び申し上げます」

今回の一連の件について、障がい者の仕事づくりに取り組み、丸の内朝大学でビジネスパーソンと障がい者施設をつなぐ講座の講師をしていた羽塚順子さんは、次のように語る。

「今回話題になっている男性は、車いすでの搭乗に慣れているようですが、障がいのある人たちの中には、そもそも普通のサービスを受けたり、一般の人と一緒に旅行することは難しいと諦めている方も多いのです。そんななか、せっかくのチャンスだから奄美大島に行こうと思った二人の女性は、その決断をするのにどれほどの勇気が必要だったろうと思います。たとえ航空会社がすんなり対応してくれたとしても、実際に遠隔地まで公共交通機関で行くということには、健常者の何倍ものエネルギーが必要なのです」

障がいが不便なのは、障がいがあるからではなく、環境が障がいに対応しておらず、できないことがあるからだ。では環境をいきなり100%バリアフリーにできるかというと現実的には難しい。だから対応できない、ではなく、少しずつバリアを減らしたり、対応を柔軟にしていくことはできないだろうか。今回の件も性急に白黒つけるのではなく、車いす利用者の不便な環境を少しずつでも減らしていくために、皆が声をあげ、考えていくきっかけになることを願う。

文/和久井香菜子 写真/(c)Halfpoint / fotolia

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