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70代で使う医療費は驚愕の数字。厳しい「長生きリスク」

老後の医療費はいったいいくらかかる?

若い人から高齢者まで、みんなが心配な「老後のお金」。とくに年を取るにつれて必要になってくるのが医療費です。いったいどれくらいかかるのでしょうか。見えてきたのは「長生きリスク」の現実でした。

60才以上世帯の平均貯蓄は全世帯平均の1.5倍

老後で心配なのが、自分が病気になったときのお金です。

がんになったらどうしよう……
認知症になったらどうしよう……
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病気の不安に加え、お金の不安も決して小さくありません。いまや女性の49.9%、男性の25.6%が90才まで生きる時代です(厚生労働省「簡易生命表の概況」による)。

自分がいつまで健康でいられるかわからない、その時年金だけで大丈夫だろうか……。この「長生きリスク」が高齢者を貯蓄に走らせていることを示すのが次の数字です。

平成29年度版高齢社会白書によると、世帯主が60才以上の世帯の貯蓄額の中央値は1,592万円。これは全世帯の貯蓄額の中央値1,054万円の約1.5倍で、世帯主が60才以上の世帯が、他の年齢階級に比べて大きな純貯蓄を持っていることが見てとれます。

その目的はズバリ「万一の備えのため」。47.5%の人がこう回答しています。しかし本当に貯蓄だけの備えでよいのでしょうか。

一生のうちに必要とする医療はなんと……

一人が生涯で必要とする平均医療費について推計した「生涯医療費」という調査があります。それによると、一人の人が一生のうちに必要とする医療費は、2,600万円。

その割合を年代別に見てみると、90代で7%、80代で20%、70代で21%という結果でした(平成26年度・厚生労働省)。60代が15%、50代が9%であることを考えると、70代~80代にもっとも医療費がかかっていることがわかります。

ちなみに医療費のかかる年代を大きく区切ってみると、0才〜70才未満までで50%、70才以上で残りの50%となっています。いかに70代以降に医療費がかかるのかがよくわかります。

生涯医療費の50%を70才以降に使う

つまり単純計算で70才からの医療費に1,300万円が必要だということです。

現在、日本人の平均寿命は、女性87.14才、男性80.98才ですが、じつは健康寿命はそれより10年前後短いのです。つまり死ぬまでの約10年間は、病気になったり体の機能が衰えたりすることを想定しておいた方がいいでしょう。そこが、医療や介護に多くのお金がかかる期間となるわけです。

医療費がたくさんかかるのは圧倒的にがんと言われています。次に脳卒中です。

いまや日本人が死ぬまでに2人に1人は罹患するとされているがんは、健診などで見つかる機会も増え、かかっても共存しながら生きていく病となりました。つまり、その分、長期の治療が必要になる場合もあるということです。

ちなみに、年齢別のがん罹患率の調査(2013年「年齢階級別罹患率−全部位」;国立がん研究センター対策情報センター)を見ると、男女ともに50代くらいからがんにかかる人の割合がぐっと増えていきます。

使わない、使えないまま一生を終えるリスクも

このため、それなりのお金を準備しておく必要がありますが、現金で備えておくと、それは病気になるまで使えないお金になってしまいます。

使いたいのをがまんして病気になったときのためにと、銀行に500万円、タンスに1000万円と蓄えていても、病気にならずに亡くなるという悲劇(?)が起こるかもしれません。

起きるか起きないかはっきりしないものに関しては、保険で備えるという方法があります。起こらないかもしれないけれど、起こったら困るものは保険で備えるという考え方です。

60才以上でも重大な疾患にかかっていなければ、医療保険に加入できる可能性があります(すでに病歴がある場合は、保険料が少し高くなる、保障の範囲が少し狭くなることもあります)。

高齢になるほど保険料は高くなるので、60代以降は掛け捨てタイプに加入するという選択肢もあります。40~50代なら、掛け捨てでないものに入る選択肢も。死亡時に払込み保険料の一部6~7割が返ってくるタイプの貯蓄型の保険なら、葬儀費用に充てることも考えられます。

40代、50代から老後の医療費を考えよう

こうした「長生きリスク」への備えを考えるなら、早い方がよいのです。

40〜50代を一つの目安に、医療費についても検討し直す。選択肢には、貯金する、今あるお金を運用する、民間保険などがあります。病気にかかるなど、不確かなものに対してどうお金を準備するかは、お金の使い方、つまりどう生きるかの選択につながっていくからです。

がんに不安を感じている方が、がんになったときのお金を民間の保険で備えておくと、保険料以外のお金はふだんの生活費に使えるわけなので、医療費用にと備えておいた現金1000万円を残したまま亡くなる、という事態にはなりません。

がん保険である程度の治療費はカバーできます。しかし、がん保険も診断一時金をメインにするもの、通院だけでも給付金が出るものなど、いろいろな保障が出てきているので、精査する必要があります。決めにくい場合は、なるべく使える範囲の広い給付金の保険を選ぶのがいいでしょう。

「自分が死んだときに保険金が出ても、自分で使えないからイヤ」という理由で生命保険に入らない人はいます。でも、医療保険やがん保険は自分のための保険と言えます。

また、がんを患っていなくても、自宅や施設で訪問診療などを受けていたら医療費がかかります。医療は日々どんどん進歩しています。長く医療のお世話になることを想定しておいた方がいいでしょう。

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◆アドバイス:志村直隆(ファイナンシャルプランナー/がん治療コンサルタント/2017 MDRT終身会員)
取材・構成:生島典子(フリーライター)、まなナビ編集室 写真/fotolia/Photographee.eu