夫婦関係危機だけど離婚したくない場合の対処法

亀口憲治 国際医療福祉大学大学院教授「ストレス時代を生き抜く知恵と工夫」(その3)

芸能界から政界まで不倫報道が増えている。石田純一による「不倫は文化だ」報道が21年前。不倫・別居・離婚に対する私たちの視線は昔より厳しくなっているのか。国際医療福祉大学大学院教授で家族療法の第一人者・亀口憲治先生によれば「現代は夫婦関係の危機の時代」だという。

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芸能界から政界まで不倫報道が増えている。石田純一による「不倫は文化だ」報道が21年前。不倫・別居・離婚に対する私たちの視線は昔より厳しくなっているのか。国際医療福祉大学大学院教授で家族療法の第一人者・亀口憲治先生によれば「現代は夫婦関係の危機の時代」だという。

不倫報道があれほど加熱するワケ

2017年1月に厚生労働省が発表した「平成28年人口動態統計の年間推計」によれば、2016年1年間の婚姻件数は62万1000組、離婚件数は21万7000組となった。強引に計算すれば、3組に1組が離婚する時代といえる。離婚に至る原因のトップは「性格の不一致」である。

しかし離婚に至らないまでも夫婦関係に問題を抱えている夫婦はもっと数多くいる。亀口先生は、次のように語る。

親子の間の問題や家族の問題の根本は、夫婦関係にあることが多いんです。そして今は夫婦関係が危機を迎えている時代です。テレビのワイドショーで、芸能人から政治家まで、最近ものすごく不倫スキャンダルや離婚の話題が取り上げられているでしょう? あれはテレビを見ているごく一般の夫婦の関係にストレスがたまってきているからなんです。メディアは潜在的な夫婦の危機を代弁しているんですよ」

それで腑に落ちた。とくに政治家の不倫疑惑があれほど大きく取り扱われるのは、今までにはないことだったからだ。なるほど、「不倫」「離婚」といった言葉が視聴者の心に刺さるようになったからこそ、メディアはその反応をくみ取って、そのテーマを大きく扱うのだ。

欧米で家族療法・夫婦療法が生まれたわけ

そうはいっても日本は世界から見ればまだまだ離婚率が低い方である。欧米でこうした夫婦の危機がクローズアップされたのは1970年代。その頃アメリカでは離婚率が50%を超した。その中で注目されてきたのが“家族療法”や“夫婦療法”だ。それぞれの家族や夫婦の中にこそ問題解決の糸口があると考え、家族や夫婦を対象にカウンセリングしながら解決の方法を探っていくものである。

「欧米の夫婦は思ったことを遠慮せずに言い合い、ディスカッションします。それを行司みたいに仕切るのが弁護士やカウンセラーです。どんなに話し合いを重ねても互いに一致しなければ、じゃあ別れるしかないね、となる。で、別れたら自分に合ったパートナーをまた見つけて再婚する。次々相手を変えるのも、自分や相手が悪いわけではなく、互いのマッチングが悪いだけ、と考える。このように実に合理的なんです」

しかし亀口先生は、欧米式の家族療法や夫婦療法は、日本人に合わない面もあるという。

日本人は本音で向き合わずに突然離婚。おまけに嫁姑問題も

「この数十年で日本人の価値観は大きく変わりました。戦争を知っている80代や90代の人と、戦後生まれの団塊の世代とではまるで価値観が違いますし、団塊ジュニアではまた違う。とくに女性の意識が変わって、不本意な夫婦関係であってもじっとがまんする、といったことはなくなりつつあります。

昔であれば、不倫や確執など、夫婦間の問題は『墓場まで持っていく』とかいった話もありました。今は『墓場まで持っていく』どころか『一緒の墓に入りたくない』と宣言する時代です。だからといって、問題の本質をおおっぴらに話せるようになったかというと、そうではないんです。

日本人は『それを言ったらおしまいよ』という本質的な問題には、お互いにわかっていてもフタをして口に出しません日本人は家族どうしでも本音で語り合うことがほとんどないのです。欧米では本音と建て前を使い分けたりすることを、ダブルスタンダードといって嫌いますが、日本人にとって使い分けることが日本的知恵なんですね。だから欧米の技法をそのまま輸入しても、なかなか日本人の本音までは到達しないんです。本音を突き詰めないまま、こんなものかなとあきらめて何とかやっていく。で、ストレスがたまりにたまった末に突然、熟年離婚をするんです。

また、日本には独特な嫁姑問題があるでしょう? これが夫婦問題をややこしくするんですね。『いろいろあるだろうけど、なんとか夫婦仲よくしなさい』なんてお姑さんから言われでもしたら、かえって『絶対この人とはイヤ』となる。ご主人もお姑さんにこぼすものだから、「いじめられてかわいそうだね」『悪い嫁だね』『がんばんなさいよ』となる。話し合いで問題点を解決しようとすればするほど、修復どころか離婚しかないとなってくる」

空気が変われば「何とかやっていけるかな」に

「日本人が互いにわかりあうためには、互いの心を代弁する、触媒のようなものが必要です」と、亀口先生は言う。

そこで亀口先生が見つけたのが、軽量粘土だった。軽量というだけあって、とても軽く、柔らかい。それをこねながら好きなものを作ることで、夫婦の協同作業とスキンシップの代替となり、知らない間に場の空気が変わってくるという。(「引きこもりや家庭不和に粘土を使った心理療法を」)

「離婚したくてたまらないという人はカウンセリングには来ません。弁護士のところに行くでしょう? 何とかしたいけど何ともならない人がカウンセリングに来るんです。だから対決しなくていいんです。粘土を触りながら何となく話をして、雰囲気がよくなればそれでいい。空気が変わればいいんです。その変わった空気を夫婦が感じとって、『何とかやっていけそうね』と思えば、やっていけるんです

たとえば『つまらないものですが……』と手土産を持っていきますよね。それは物を渡すのではない、『心をどうぞ受け取ってください』と言っているんです。モノではなくて、ココロのやりとりなんです。そうした、ちょっとした触媒とかきっかけを提供するだけで、なんとなく納得して関係が改善する夫婦が、日本にはたくさんいるんです」

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◆取材講座:「ストレス時代を生き抜く知恵と工夫」(国際医療福祉大学大学院・乃木坂スクール)

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取材・文/まなナビ編集室(土肥元子) 写真/(c)Monet/ fotolia

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