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「シニア世代のレジャーランド」にしてはいけない

早稲田大学エクステンションセンター長の太田正孝先生(早稲田大学商学学術院教授)

早稲田大学エクステンションセンター所長の太田正孝先生(早稲田大学商学学術院教授)

早稲田大学エクステンションセンター所長の太田正孝先生(早稲田大学商学学術院教授)に聴く後編。オープンカレッジがレジャーランド化してしまってはいけないと考えている太田先生が語る、早稲田大学が新たに取り組む社会人教育とは……。(前編はこちらから)

創造力をもって進化し続ける時空に人は集まる

「かつて早稲田大学はレジャーランド化しているといわれていた時代がありました。学部学生がいつも文化祭をやっているような状態。

それと同じことがオープンカレッジにも起こるかもしれません。『シニア世代のレジャーランド化』です。オープンカレッジを持続的に発展させるためにも、それは避けなければならないと考えています」

2014年9月より早稲田大学エクステンションセンター所長を務める太田正孝教授は、商学学術院でグローバルビジネスにおける異文化マネジメントを専門としている。国際社会でのビジネスのあり方を考える眼で、生涯学習の現状を見直すことも必要だという。

「ビジネスの現場では、常に新しいことを模索し、新陳代謝をおこなっていかないと生き残れません。オープンカレッジも同じです。たんに居心地のいい場所を提供するだけでは、時代の精神とニーズに応える形で変容していくことはできません。同じ製品やサービスを昔と同じように作っている企業には人は集まらない。進化しているところに人は集まるのです。

シニア層の人たちが、たんに昔学んだことを確認したり、懐かしむことで生じる居心地の良さだけが売り物のオープンカレッジになってしまうならば、エクステンションセンターの未来はないです」

では、どうしたらいいのか。

『WASEDA NEO』とはいったいどんな試みなのか

この夏、早稲田が仕掛ける『WASEDA NEO』

「常に自分の知らないことに興味を持って、最新の学問や科学の成果に触れていたい。今の“知”を探求したいという好奇心はとても重要なことです。そして、それに応えていくためには、大学の学部、大学院、そして社会人教育が相互に刺激を与えあう仕組みが必要です。

現在早稲田大学では、オープンカレッジとは異なる現役社会人を対象とした新規事業『WASEDA NEO』を計画中で、2017年夏より早稲田大学日本橋キャンパスにて開始します。

“NEO”は「日本橋エデュケーショナルアウトリーチ(Nihonbashi Educational Outreach)」の略称です。“Outreach”という言葉には予想を越える活動といった意味があり、既存の社会人教育プログラムにはない先端的な試みとなります」

『WASEDA NEO』のホームページには「新しい時代を創る志を持った社会人たちの交流とイノベーションの機会を提供します。(中略)高等教育機関として早稲田大学が取り組む、従来の大学にはなかった未来を創るための挑戦的な貢献活動です」とある。

「社会人教育を創新的に推進しようと思ったときに、従来のエクステンションセンターの枠組み内では無理だと思ったのです。その意味では、『WASEDA NEO』は21世紀の早稲田が推進する社会人教育のハイエンドに位置するものです」

教育のハイエンドである『WASEDA NEO』では、実際に社会の最前線で働く人々が、最新の知見を求めて切磋琢磨するという。

「社会人教育は学部の付属物ではなく、お互いに刺激し合うような関係でなくてはなりません。そのために、WASEDA NEOは人数を絞り、ビジネス、行政、ITO、異文化問題等々、いま社会で現実に起きている先端的なテーマに対応した実践的研修プログラムを提供します」

「言ってみれば、WASEDA NEOは知の時空の最先端でトンネルを掘っているようなものです。さまざまな業種の人材が集まって、実業界の知見と学問的知見をぶつける場にしていきたい。

その結果として、エクステンションセンターのオープンカレッジも、WASEDA NEOと同じ『進取の精神』に基づいて、すべての年代の知的好奇心を刺激し続ける場に変容していくと考えています。エクステンションセンターとWASEDA NEOは、早稲田が理想とする社会人教育の両輪となる訳です」

今年夏、日本橋に誕生する『WASEDA NEO』にも注目したい。

〔前編をよむ〕大学の知を広げ、『進取の精神』を吸収してもらう

2017年3月17日取材

文/奈良巧 写真/坂本道浩