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黒人は“capital” 英語で学ぶ人種差別関連の3有名人

ジェームス・M・バーダマン早稲田大学名誉教授

ドナルド・トランプ大統領の誕生は、アメリカの白人社会の奥底に眠っていた人種差別というパンドラの箱を開けてしまったようだ。しかし日本に暮らす私たちは、アメリカの人種差別の歴史について、どれくらいのことを知っているのだろうか。早稲田大学エクステンションセンターの「Western Genius」講座でジェームス・M・バーダマン(James M.Vardaman)早稲田大学名誉教授が語ってくれたのは、奴隷解放によって自由になった黒人を、南北戦争後も白人が〈有効〉活用した非情な差別の実態だった。

歴史と英語を同時に学ぶ。予習はWikipediaで

こじんまりとした教室に男女が十数人。アットホームな雰囲気だ。受講生の手元には、西洋の歴史上の人物について英語で解説されたプリント。この英文は、バーダマン先生独自の歴史的解釈も含まれた、オリジナルのテキストだ。

講座名の「Western Genius」は、いわば西欧的価値観。テキストには英文がずらりと並んで難しそうに見えるが、事前に配られているので、わからない単語は授業までに予習できる。自分なりの和訳を書き込んだり、手元に電子辞書を置いている受講生も多い。

途中からは二つのグループに分かれて英文を読み合い、わからなかった点などを受講同士で話したり、先生に質問したりして、和気あいあいと授業は進んでいく。質問も答えもできるだけ英語が使われるが、受講生同士、日本語で内容を確認し合うことも。先生も日本語は堪能で、難しい用語や歴史的トピックについては日本語も交えて解説されるので、英文が理解できなくても授業についていけないということはない。

「“読む”ということは非常に有益です。目と口で読むことで、文法や単語の勉強を超えて、英語の“回路”ができてくる。この授業のように、あるトピックについて英文で学ぶと、まずそのトピックについての知識が吸収できて、気づいたら英語も身についていきます。英語自体よりも、英語で何を学ぶかが大事。わからない単語があるのは当然! 英文の内容が難しかったら、まず日本語のウィキペディアで調べてみてもいい」と、バーダマン先生。

実際にこの授業では、ささいな文法ミスを気にするよりも、英文を通して学んだ歴史的事実や社会情勢への理解を深めることに重きが置かれている。この日のテーマはアメリカの人種差別の歴史に名を残した3名だ。

うっかりそのバスに乗ったのがきっかけで解放運動に

まず取り上げられたのは、活動家のローザ・パークス。パークスは、アフリカ系アメリカ人による公民権運動が広がるきっかけをつくったとして知られる人物。1955年、パークスは、segregation law(人種分離法)違反として逮捕された。

「ローザ・パークスの“バス”事件は、いわゆる一般の黒人女性が仕事でとても疲れていたのに座っていた席を白人に譲るように言われ、譲らなかったことで大問題になった出来事として有名です。それを機に、ここアラバマ州モンゴメリーで黒人によるバスボイコット運動が起こり、公民権運動へと広がります。もともとパークスはNAACP(有色人種向上協会)のメンバーとして活発に活動していました」とバーダマン先生は、英語と日本語で語る。

このバス事件は、パークスの“うっかり”から起きてしまったのだという。

ジェームス・M・バーダマン早稲田大学名誉教授

「パークスはこの時のバス運転手を嫌っていて、この運転手のバスに乗るのを避けていました。ところがその日はくたびれていて、うっかり乗ってしまったのです」

続いて紹介されたのは、ローザのバス・ボイコット事件の100年前に生まれた、教育者のブッカー・T・ワシントンだ。1856年にバージニア州で奴隷として生まれ、奴隷制解放後、黒人の経済的・社会的環境の向上のためにはvocation education(職業教育)が重要であると提唱し、黒人のための教育者として活躍した人物である。

「当時は住む場所、歩く道、使う店、学校、病院、すべて白人用と黒人用で分かれていました。黒人の使う病院のスタッフは、黒人用の医療学校で学んだ人たち。ブッカー・ワシントンはアラバマ州のタスキーギに設立された黒人用の職業訓練学校の校長を務めています。この学校は現在タスキーギ大学に改変されていて、私も行ったことがありますが、実は現在も生徒の9割以上は黒人です」

黒人は“capital(資産)”と言われていた

最後に取り上げられたのは、なんとバーダマン先生の曽祖父、ジェームス・K・バーダマン。強烈な白人至上主義者として知られる人物だ。1904年から4年間ミシシッピ州の知事を務めたジェームス・K・バーダマンは、教育や政治などあらゆる面で黒人の権利剥奪を推進した。1862年の奴隷解放宣言や1865年の南北戦争の終結から半世紀もあとの話である。

「当時、労働力としての黒人は“capital(資産)”でした。黒人奴隷の解放は“loss(資本の損失)”を意味する。当時、“解放”された黒人たちの多くは、働く場所もなく、ブラブラしていた。そういう黒人たちを野放しにしておくのは危ないということで、社会統制を目的に拘束して、“penal farm”に収容したのです」

“penal farm”とは、刑事農場。かつての奴隷制プランテーションを近代的なかたちにしたわけだ。アメリカの社会経済の発展のためには、どうしても黒人の労働力が必要だと考えたのだ。

「ジェームス・K・バーダマンは、黒人に教育などは必要ない、と主張しました。この政治的アピールは当時、当然のこととして受け入れられたのです」

家康や幸之助を知る必要があるように

「差別問題は単純に良い悪いではなく、その歴史を知って学ぶことが何よりも大切」とバーダマン先生は語る。

「差別は、異なる国籍や宗教の人と一緒に暮らす現代社会にもつながる課題です。人種だけでなく、文化や男女、経済などあらゆる面で差別は起こりうる。様々な人が共存するなかで、区別することが必要となる場面もある。例えば、インドカレーを食べる人と、その匂いが苦手な人が共存するためにはインドカレー用のビルを作ることが求められる場合もあるかもしれません」

英語で歴史や文化を学ぶというのは、文化的コミュニケーションツールとして必要な教養を身につけるということ。日本で徳川家康や松下幸之助を知らなければ会話についていけないように、異文化のコミュニティに参加するためには、知っておくべき歴史や人物があります」

そう強く感じているバーダマン先生がこの春から開講するのは、「英語で話す日本史〔中級〕」「英語で話す戦後の日本〔中級〕」(以上、早稲田校)と「アメリカの教科書で学ぶアメリカ史〔中級〕」(中野校)。「授業を通して身に着けてほしいのは、英語を超えた「教養」です」とバーダマン先生。

「歴史好きの方や、教養としての英語を身につけたいという方の参加をお待ちしています!」とのことである。

バーダマン先生が受講を勧めるのはこんな方々──
・歴史や文化に興味がある人
・能動的に学ぶ姿勢がある人
・100%わからなくても前に進める人
・留学や海外赴任など、異文化圏での生活の予定がある人

「自分自身を知ってもらい相互理解を深めるために、自分の育った文化や歴史が英語で話せることも大切。これは、私自身が外国人として日本に来た経験からも強く感じていることです」とバーダマン先生は語る。

〔今日の名言〕「英語で歴史を学ぶ=文化的コミュニケーションツールとしての教養が身につく」

〔受講生の今日イチ〕参考資料としてウィキペディアのコピーを持参している人が多い。

〔おすすめ講座〕
英語で話す日本史〔中級〕
英語で話す戦後の日本〔中級〕
アメリカの教科書で学ぶアメリカ史〔中級〕

取材講座データ
Western Genius〔中級〕 早稲田大学エクステンションセンター早稲田校 2016年度秋期

2016年12月6日取材

文/露木彩 写真/早稲田大学提供、Adobe Stock