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食品パッケージ変え売り上げ198%、デザインの力とは

「食のデザイン・パッケージデザイン入門」で講義する阿部岳先生

日本人は食べることが大好き。ふるさと納税も“食”。テレビ番組も“食”。村おこし町おこしも“食”。日本人は食でコミュニケートする。その食のパッケージは、その食の特徴をアピールできているだろうか。藝術学舎〈京都造形芸術大学〉外苑キャンパスの公開講座「食のデザイン・パッケージデザイン入門」を受講してみた。

“食”のパッケージデザインを学ぶ人ってどんな人?

「果樹を栽培している実家がジュースを作っているが、そのラベルをもっと売れるものにしたい」
「食品輸入会社に勤めていて、新しく菓子の輸入も手掛けることになった」
「主婦ですが、子どもの頃から“箱集め”が好きだったので、すてきなパッケージに出会いたい」
「食品会社の法務部に勤務しているので、食とパッケージの関係が知りたい」
「京料理の店を経営しているが、お客様にアピールするディスプレイを研究したい」
「日本酒のラベルをデザインしたい」
「友人が始めたケーキ店を手伝うことになった」
「お菓子作りが好きなので、プレゼントする時のパッケージにもっと凝りたい」
「飲食チェーンに勤めているが、社長から、もっとおいしそうなPOPやメニュー表を考えろと言われた」

藝術学舎の「食のデザイン・パッケージデザイン入門」に集う受講生の受講理由だ。あるあるとうなずくあなたは、“食”を通して他人とコミュニケートしようとしている人だ。

デザインを依頼するクライアントの多くは自信がない

講師の阿部岳(あべ・がく)先生は、食品のパッケージデザインでこの10年間にグッドデザイン賞を5回受賞しているグラフィック・デザイナーのカリスマ。企業のCI(コーポレート・アイデンティティ)戦略にもかかわってきた。

阿部先生が言うのは「食のパッケージにはすべてが宿る」ということ。作り手の思いや商品の特徴だけではない、そこに至るまでのクライアントとデザイナーの格闘のプロセスや、その食を通してコミュニケートしようと苦悩する姿までが見えるという。

デザイナーの仕事というと、日夜、Macの前で格闘しているような印象だが、それは最後の詰めの段階だけだという。ほとんどの時間は、「その商品の強みや、こだわっている点」を聞き出すこと、「何を伝えたいか」を議論すること、「それらとコストが両立するか」を考えること、に費やされるという。

「多くのクライアントは自信がないのです。こんなもの作ってみたけど売れるかなあ、と思っている。どこが強みなのかを一緒に探していくことから仕事が始まります

ガトーショコラならどこにも負けない

たとえば、 中部圏のある洋菓子店の話。

ホテル向けのブライダル用の洋菓子が主力商品だが、そのパンフレットやギフトパッケージは、営業の人が恐縮しながら「こんなモノしかないのですが……」と言うほどパッとしないものだった。

パンフレットの写真には、よくありがちだが、数種類の商品の傍らにブライダルブーケの写真があしらわれている。これでは 競争の激しいブライダル用ギフト菓子の中で埋もれてしまう。

「話を聞いていくうちに、この会社では、ガトーショコラ(チョコレートケーキ)の味と品質には絶対の自信があることがわかってきました。ガトーショコラなら、どこにも負けない、と言うのです。そこで『ガトーショコラのおいしさを最大限に伝えるデザインにしましょう』ということを決めました。強みがストレートに伝わるデザインをめざしたのです」

ロゴマークはシンプルで力強く、高級感も

パンフレットは、ありきたりのブーケをあしらうものから、自慢のガトーショコラが目に飛び込んでくるものに変更した。パッケージはシンプルで力強いロゴマークを中央に配置し、高級感あふれるものにした。 すると、ガトーショコラの引き合いは目に見えて増えていき、商圏に考えていなかった首都圏のホテルからも商談が舞い込むようになったという。1年後の売上高は前年に比べ198%を記録。ほぼ2倍となった

「なにより、いちばん変わったのは、最初は『こんなものしか…』と言っていた営業の人が、自分の商品に自信を持つようになったことです。デザインは見た目を変えるだけではなくて、人の心も変える力を持つんです」

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取材講座:「食のデザイン・パッケージデザイン入門」(藝術学舎〈京都造形芸術大学〉外苑キャンパス)

文・写真/金子浩昭