今日4月14日から明日15日まで、春の高山祭が開かれる。毎年、豪壮な祭屋台をひと目見ようとする人々で賑わうが、観光客のもうひとつのお目当ては情緒あふれる町家建築。だが、立命館土曜講座「歴史文化都市の防災と建築史学」を受けてみたら、その町家にも知ってビックリのヒミツが! 講師の青柳憲昌先生(同大理工学部講師)によるその内容とは?
梁組「すごーい」でなく、どこが「すごい」か
高山といえば、飛騨材を贅沢に使った重厚感ある家屋が特徴的だ。風雪に耐える雪国の家、という感じで、いわゆる民芸作りの趣が日本的でかっこいい。青柳先生が高山の町家を表す言葉として紹介されたのが、民家研究の第一人者「伊藤ていじ」さんの言葉。
「(高山の町家は)組織化された格子が奏でる空間の凱歌である」
空間の凱歌! 何て、かっこいい言い回しなんだろう。
青柳先生はかつて、高山の町家28棟を調査し、その梁組の構造がどうやって生まれたのかを調べた。「梁組すごい!」ではなく、どうすごいのか。どこがすごいのか。文化的価値を明らかにする視点で調査したのだという。
その結果、面白いことがわかった。いわゆる「高山的」だと思われている、「純粋な立体格子状の梁組」、つまり「梁が太い、ジャングルジムのような密な組み方をした、圧倒的な迫力の梁組」は明治期以降に見られ、それ以前の梁組には見られない特徴だったのだ。
たとえば下の吉島家住宅の梁組。玄関を入ると広大な空間があり、梁と柱が立体的に組まれている。
財をなして見せつけたかった豪商……
江戸時代には豪華な材の使用が禁止され、高さ規制もされていた。それが明治の世になり規制が解除されると、財をなした豪商が人々に「見せつける」ための豪奢な町家を建築した。
つまり、高山の町家の特徴として捉えられていた「立体格子」の梁組は、実は明治期の豪商の町家に特徴的なものであり、明治の豪商たちの美意識の賜であったのだ。
町家と町家の間には
なるほど。高山には何度か訪れているけれど、それこそ「町家、すごーい」だけで、じつは高山の町家というものをちゃんと見ていなかった。各町家で建築年代が違い、年代ごとの特徴があるなど、言われてみればそのとおりだが、講座を受けなければ気づきもしなかった。
さらに青柳先生によれば、高山のこの町家と土蔵の関係が、防災的にも大きな役割を果たしてきたという。通り側に町家を建て、その奥に土蔵を建てる。つまり、町家と町家の間には、ずらりと土蔵が建ち並ぶのである。日本の建築の最大の弱点は木造で燃えやすいこと。しかし、この土蔵が一種の防火帯になり、延焼を防ぐ構造となっているという。
青柳先生の研究テーマは、いかに古い建造物の文化的価値を守りながら、現代における防災という価値観を共存させていくか、ということ。逆に、古くからの建造物を調査するなかで、現代に生かせる防災的視点を発見することも多いという。
青柳先生によれば、この高山の町家も「構造補強」という見地から見直すことができるのではないか、今に残るその構造・梁組はどのような点が防災上にも優れていたのか────引き続き調査を続けていきたいとのことだった。
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取材講座データ | ||
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「歴史文化都市の防災と建築史学」 | 立命館大学土曜講座 第3194回 | 2017年2月25日 |
2017年2月25日取材
文/植月ひろみ 写真/青柳憲昌