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震災の復興住宅。「関連死」こそ課題に

東日本大震災から7年目となる2017年春。立命館大学の災害復興支援室の企画になる講座「東北の復興住宅・まちづくりの現在」が開催された。いま被災地の住宅事情はどうなっているのだろうか。そして、まちづくりに絶対欠かしてはいけない3つの課題とは。

いまだに14万人が避難生活を

講師の塩﨑賢明先生(同大・政策科学部特別招聘教授)は阪神淡路大震災当時、神戸大学に勤務していた。その頃から、大災害の被害調査や、避難所・仮設住宅や復興住宅の調査を続けており、東日本大震災のときも調査に携わったという。

東日本大震災から6年を経てもなお、約14万人が避難生活を送っているという。ピーク時の47万人からかなり減りはしたが、この状況は阪神淡路大震災の時とはまったく異なっていると、塩崎先生は語る。

「阪神淡路大震災の時は、およそ5年ほどで、ほとんどの仮設住宅はなくなりました。復興公営住宅が42,000戸建設されて、ほとんどの方がそこに移っていったからです。6年目にはほとんど皆が、移るべきところに移りました。ただし、それがよいかどうかはわかりませんが……」

言葉を濁したのにはわけがあるが、それは後に語られる。

これら避難を続ける約14万人のうち、福島県内の避難者が約8万8000人を占めるというのも、東日本大震災特有の問題である。なおこの8万8000人のうち、県内避難をしている方が4万7000人、県外避難をしている方が4万1000人もいるという非常に重い数字が語られた。

問題は仮設住宅に住んだあと

もちろん何よりたいせつなのは命である。しかし、命は助かったが家は住めなくなった。あるいは、家そのものがなくなった。このような状況になったとき、わたしたちは一体どうすればよいのだろう。

まずは避難所で暮らし、そのあと仮設住宅に移り、仮設住宅に住みながら定住できる家を探すか建てるかするのが、一般的かと思う。先に挙げた東日本大震災の約14万人の避難者のうち約10万9000人が、およそ5万戸弱の「仮設住宅」に、住んでいるという。

ここで言う「仮設住宅」とは、私たちがイメージするプレハブ造の住宅のほか、安価で高性能の木造仮設、そしてアパートなどを仮設住宅とする「みなし仮設」などを含んだ名称である。東日本大震災では、プレハブ仮設を上回る「みなし仮設」が供給され、いまなお住み続けている人も多い。「みなし仮設」を増やした結果、阪神淡路大震災のときより仮住まいの状況は、かなり改善したといわれる。

問題はその後である。仮設住宅に永住することはできない。自力で家を建てるか、自力では再建できない人のために建てられた災害公営住宅に移るか、決めなければならない。仮設住宅に住む3割の人が、まだどちらにするか答えが出せないまま、生活を続けている。

ちなみに災害公営住宅は、約3万戸が計画され、これまでに7割程度が完成している。家賃や広さについて気になり、少しネットで調べてみた。家族で住むことを考え、60㎡くらいのものが多いようだ。家賃は地域・広さ・家族構成・年収などによってかなり変動する。また、当初は非常に低い賃料に設定されているが、ある年限を過ぎると、近隣の家賃相場に近づいていく。また、子供が独立したり、あるいは戻ってきて子供の収入が世帯収入に合算されたりといったことでも変動していく。ここを終の棲家とするべきか決めかねている人が多いというのも、よくわかる。

東日本大震災では、津波のために家屋はおろか土地をなくした人々も多かった。同じ場所に建てようにも、災害危険区域内に指定されていると、住居を建てることができない。また、区域外であっても不安はつきまとう。どこに家を建てるのか、どこに住むのがよいのか。福島からの避難民を含め、多くの人々がいまも悩んでいる現実がある。それには、入居後にもさまざまな問題があるからである。

阪神淡路大震災後、今も増え続ける孤独死

実は、震災関連死は、6年経ったいまも増え続けていると、塩﨑先生は言う。復興庁のデータによると、主な原因は避難所への移動や避難所における肉体的・精神的疲労からだ。直接地震で亡くなった方より関連死の方のほうが多い被災地もある。

阪神大震災後21年での震災関連死が死者数の16.9%を占めるのに対し、東日本大震災後6年間での震災関連死は死者数の19.1%に上る。なかでも福島県は直接死よりも関連死のほうが多く、原発事故の影響の大きさが明らかとなっている。

また、孤独死も増えつつある。

「これは手当・手立ての問題です。住宅事情はたしかに回復しつつある。しかしその回復プロセスに問題があることも事実。阪神淡路大震災の時の教訓はまだまだ生かされていないのです」と塩﨑先生。

阪神淡路大震災のときは、災害公営住宅として鉄筋コンクリートの高層住宅が震災後5年間で約4万戸も建設され、しかも低い賃料で借りることができた。しかしそれらの高層住宅は、多くが郊外や埋め立て地に建てられ、どこに入るかは抽選で決められた。地縁が完全に断たれた環境で、近所付き合いもなくなってしまい、「孤独死」が20年以上たった今も増え続けているという。これが塩崎先生が冒頭で、「よいかどうかは……」と言葉を濁した実態だ。阪神淡路大震災からの復興はたしかに早かった。しかし孤独死の問題は解決されていない。住宅を建てただけでは復興とはいえない現状が浮かび上がる。

年齢が高ければなおさら

「関連死」と「孤独死」。住環境はこれほどまでに人に影響を与える。新しいコミュニティで新しい人間関係を築くことの難しさ。しかも年齢が高ければなおさらだ。

たくさんの分析から問題を浮きぼりにしたこの講座だが、塩﨑先生によれば、災害後の住宅復興の課題は次の3つだという。
●被災者のニーズに合った住宅・住環境を作ること。
●コミュニティを破壊せず、コミュニティを育てること。
●入居後の生活のサポートを考慮すること。

次にまた、いつ大きな災害に見舞われるかわからない。これまで幾度も大きな震災を経験してきている日本だからこそ、ぜひ向き合いたい課題である。

〔受講生の今日イチ〕 福島に復興ボランティアに行っていた方や、福島にお住まいだった方が聞きに来ていた。

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2017年3月4日取材

文・写真/山浦あゆみ