宇宙では地上でのロコモ状態に
宇宙は微小重力で放射線の振りそそぐ、人体に有害な場所だ。
微小重力下では血液や体液の循環も地上とは異なり、下肢筋活動により静脈血が上半身によりしごき上げられるため顔がむくんだりする。また、重力の負荷がないことから筋力が衰え、骨からカルシウムが溶け出すという。
それが、筋力低下や骨粗しょう症などで運動機能が衰えてしまう「ロコモーティブシンドローム」(略して「ロコモ」)と近い状態になるのである。
つまり宇宙での筋力低下を予防することは、超高齢社会における寝たきりの予防医学の研究につながるという。
これは、今春、同志社大学宇宙医科学研究センターが主催したシンポジウム「語ろう! 宇宙への夢 月・火星への挑戦ー宇宙環境への人体の適応機序解明と地球上の健康増進を目指して」で詳しく解説された内容だ。
通常歩行が難しい宇宙だからこそ
また、微小重力の環境下ではかかとから着地する通常歩行が難しい。これはたとえば、月面に降り立った宇宙飛行士が、月面をホッピングしながら移動したことを思い浮かべればわかりやすい。
つまり宇宙空間において、どの筋肉が使われ、どの筋肉が使われないのかを解明すれば、宇宙旅行で必要になるトレーニング部位が明らかになるだけではなく、ひいては地上での歩行困難などの問題にも応用することが期待されるのである。
宇宙環境が新素材や新薬の開発にうってつけのわけ
また、微小重力にして高真空、そして宇宙線が降り注ぐ宇宙環境は、人体にはさまざまな悪影響を与える一方で、得難い実験場でもあるという。
たとえば、たんぱく質のきれいな結晶を作ることは、重力の影響を受ける地上では難しいのだが、微小重力の宇宙では品質の高い結晶を作ることができる。
このように、宇宙環境は、新しい素材の開発や薬の研究などにうってつけの環境なのだ。
シンポジウム「語ろう! 宇宙への夢 月・火星への挑戦ー宇宙環境への人体の適応機序解明と地球上の健康増進を目指して」の詳しい内容は以下の関連記事をお読みいただきたい。宇宙での実験がなぜ地球上の私たちの健康とかかわるのかよくわかる。
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文/まなナビ編集室