まなナビ

貧困高齢者は不健康に 23区内でも東西で平均寿命に差

杉澤先生

ひと頃、東大生の親の半分以上は年収が950万以上あることが報道され、経済格差が教育格差につながると話題になったことがある。高齢になると、この経済格差が健康格差につながってくるという。これについて桜美林大学大学院老年学研究科教授の杉澤秀博先生に訊ねた。

区によって平均寿命に3年もの開きがあるという事実

わかりやすい例としてよく挙げられるのが、東京23区の平均寿命です。これが区によっては3才くらいの開きがあるんです

今年7月発表された日本の平均寿命は女性87.14才、男性80.98才だ。これに対し、ちょっと古い2010年のデータではあるが、東京23区の平均寿命はどうかというと、次のような結果となっている。

トップは杉並区の女性88.2才、男性81.9才、。2位が目黒区で女性87.7才、男性81.5才。3位が世田谷区で女性87.5才、男性81.2才である。

では低い方を見てみよう。台東区が女性85.6才、男性77.9才。墨田区が女性85.7才、男性78.1才、荒川区が女性86.8才、男性77.8才。である。たしかに3歳もの開きがある。

生活保護受給率を見てみると……

2010年の日本の平均寿命は女性86.39才、男性79.64才だったから、これを同年の23区別データと対照すると、2010年に国の平均寿命を超えていた区は以下のとおり。

女性では、杉並区、目黒区、世田谷区、練馬区、中央区、千代田区、渋谷区、新宿区、港区。

男性では、杉並区、目黒区、世田谷区、渋谷区、文京区、練馬区、千代田区、中央区、港区、新宿区。

日本の平均寿命より寿命が長い区が、都心および西部に偏っていることに気づく。杉澤先生によれば、平均寿命は生活保護受給率と逆相関関係にあるという。

そこで東京23区の生活保護受給率を調べてみよう。2012年の東京都福祉保健局のデータをもとに、受給率の高い方から挙げていくと……

台東区4.77%、足立区3.80%、板橋区3.43%、墨田区3.22%……(中略)……杉並区1.35%、文京区1.16%、港区1.09%、世田谷区1.09%、目黒区1.04%、最も低いのが中央区で0.75%である。見事に平均寿命と逆となる。

「この数十年の間、生活保護受給率が示す貧困度のマップと、平均寿命が示す健康度のマップはほとんど変わっていません。生活保護受給世帯が多いい地域ほど、寿命が短い状態が数十年続いているのです」

高齢期の経済水準だけが影響するわけではない

今年6月、厚生労働省は2016年度の全国の生活保護受給世帯164万1532世帯のうち65歳以上の高齢者世帯が全体の約51%を占めると発表した。今や生活保護受給世帯の半数以上が高齢者なのである。以上を考え合わせると、貧困に陥った高齢者ほど健康を損なっているのではと推測される。

しかし杉澤先生はそう単純ではないという。

「この数十年の間に世代や各家庭の構成員はかなり入れ替わっているはずなのに、マップは変わらないのです。その一貫性は何なのか」と語る。

杉澤先生によれば、高齢期の健康格差というのは、高齢期における経済的な水準だけで決まるわけではなく、その人のライフコースと深いかかわりを持つという。これについて詳しくは続き記事「非正規雇用多い現代の若者、40年後の健康格差が心配」で。

日本で唯一、老年学研究科を持つ桜美林大学大学院では、来る10月21日に「高齢者における貧困・格差問題-現実とその対応-」と題した公開講座を開催する。高齢者における「貧困」「格差」の問題を経済、健康、社会関係の面から取り上げ、その対応策について考える講座となるという。

プログラムは以下の通り。
□高齢者における経済的貧困とその要因 山田篤裕(慶応義塾大学経済学部教授)
□高齢者における健康格差とその要因 杉澤秀博(桜美林大学大学院老年学研究科教授)
□高齢者の孤立と自治体・民間の対応 島影真奈美(ライター、老年学)
□地域における貧困高齢者への対応 大屋由枝(大田区地域包括支援センター蒲田医師会)
申し込み・問い合わせは桜美林大学四谷キャンパス事務室(TEL:03-5413-8261 FAX:03-5413-8269)まで。

〔前の記事〕
「定年前うつ」を乗り切るために知っておくべきこと

取材・文/土肥元子(まなナビ編集室) 写真/(c)lunacaena / fotolia