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認知症の一歩手前でとどめておくには

Q 認知症の一歩手前の段階をMCI(Mild Cognitive Impairment=軽度認知障害)といいますが、認知症とMCIの違いとして正しいものは、次のうちどれでしょう?

A 認知症は65歳以上に発症するが、MCIは40歳以上で発症する
B 認知症の人は記憶力が低下している自覚はないが、MCIにはその自覚がある
C 認知症の人は怒りっぽくなるが、MCIの人はそうでもない

認知症とMCIの間には明らかな違いがあります。MCIは本人が、認知機能の低 下を感じているものの、日常生活や社会生活に大きな支障は起きてない状態です。一方、認知症の人には低下している自覚がなく、日常生活にも社会生活にも支障が生じる状態です。

認知症もMCIも年齢は関係ありません。65歳以下で発症する認知症は「若年性認知症」と呼ばれます。MCIをあらわす「軽度認知障害」とは別です。また、認知症の人は怒りっぽいといわれますが、それは人によって異なり、必ずしも怒りっぽくなるわけではありません。

よって答えはBです。

だれでも高齢になると「もの忘れ」が増えてきます。その「もの忘れ」が年相応のものか、それ以上のものかで、認知症かどうかの判断は分かれます。MCIは年相応とも病的ともいえない“グレーゾーン”といえる状態です。

多くの場合、最初に見られる認知機能の低下は記憶力です。MCIの段階では「最近もの忘れが増えた」という自覚がありますが、認知症に至ると、忘れたことを忘れてしまいます。わかりやすい例として、昼ご飯のメニューを覚えていないのがMCI、昼ご飯を食べたことを覚えていないのが認知症です。

認知機能とは記憶力だけではなく、視覚や聴覚、味覚などの知覚、判断力、思考力も含みます。MCIにはいろいろなタイプがあり、中には記憶障害が見られない人もいます。その代わり、簡単な言葉が出てこない、いつもしていたことができなくなる、近所なのに道に迷うなど、知機能の低下が見られる場合はMCIの可能性があります。

MCIの段階で適切な対策を取れば、認知症に進行することを防げる可能性があります。進行するにしても、進度を遅くできるかもしれません。だからこそMCIの兆候を見逃さないこと、MCIかな? と疑われる場合、なるべく早く対策を打つことが重要です。

認知機能の低下が見られるものの病的ではない、グレーゾーンの状態であるMCI。認知症は防げないといわれてきましたが、MCIの段階で正しく対処すれば、認知症へ進行するのを防げる可能性があります。当シリーズではMCIを見逃さないための知識、認知症の予防策をご紹介していきます。

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■監修■朝田隆(東京医科歯科大学脳統合機能研究センター認知症研究部門特任教授/メモリークリニックお茶の水理事長)
あさだ・たかし 1955年生まれ。東京医科歯科大学医学部卒業。同大学神経科精神科、山梨医科大精神神経科、国立精神神経センター武蔵野病院精神科、筑波大学精神医学教授などを経て現職。認知症の早期診断法や予防、リハビリに携わり、MCIの啓蒙活動を積極的に行っている。

文/佐藤恵菜 イラスト/みやしたゆみ