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胃がん患者のピロリ菌感染率は……驚愕の%

ピロリ菌は胃の中にだけ棲息する

日本は胃がんの最多発国だが、先進国の中でもピロリ菌の感染率が特に高いことで知られている。ピロリ菌が胃がんを引き起こすことは広く知られてきているが、具体的にどのような影響があるのか。そこで、日本医科大学病院で開催された講座「ピロリ菌と胃がん-最近の話題」(2017年11月4日開催)を取材した。講師は日本医科大学消化器内科学教授で同大付属病院内視鏡センター長の貝瀬満先生。3回に分けて紹介する(本記事は1回目)。
ピロリ菌の発見はわずか24年前のこと

今でこそ、国民の多くがその名を知っているピロリ菌だが、発見されたのはわずか24年前のこと。オーストラリアの微生物学者バリー・マーシャル博士は、胃酸の中でも生存するピロリ菌の存在と、ピロリ菌が胃潰瘍や十二指腸潰瘍と関りがあるという仮説を立てた。それまでは、胃酸の中で存在できる菌などいないと思われていたのである。その存在を証明するために、1984年、マーシャル博士はピロリ菌を飲み、胃炎を発症した。この功績により、彼は病理学者のロビン・ウォレン博士とともに、2005年ノーベル生理学・医学賞を受賞した。

それから24年。日本のピロリ菌事情はどうなっているのだろうか。貝瀬先生は語る。

「ピロリ菌感染率は1970年は非常に高い感染率でしたが、衛生環境が整うともに徐々に感染率が減り、東京郊外の人間ドック受診者の最新の調査では、40代の感染率が20%台まで減ってきています。20代だと10%、10代だと2%くらいです。しかし70代は50~60%くらいと、高齢者では相変わらず半数を超えています」(貝瀬先生。以下「 」内同)

なぜピロリ菌を除菌しなければならないのか

ピロリ菌が胃に入ると、なぜ胃炎を発症するのだろうか。

「ピロリ菌は多くの病原因子を持っています。ピロリ菌には針のようなものが内蔵されていて、胃に入ると胃の粘膜に針を刺し、病原性タンパク質CagA(キャグA)を注入します。すると異常をきたした細胞からシグナルが出され、ピロリ菌を退治しようと白血球などが集まってきて、そこで炎症が起こるのです」

感染したからといってすぐに症状が出るとは限らない。しかし炎症が続くと慢性胃炎になり、そのまま長年が経過すると、胃潰瘍、十二指腸潰瘍、そして胃がんなどが引き起こされてくるという。

講座では、ピロリ菌に感染している人と、感染していない人の胃の内視鏡写真が映し出された。ピロリ菌に感染していない胃の粘膜は見た目はツルリとしていてとてもきれいだが、ピロリ菌感染者の胃の粘膜はヒダが太く盛り上がり、全体に赤く腫れあがっている。 

胃がん発症者におけるピロリ菌感染者の割合は……

ピロリ菌と胃がんには深い関連性がある。貝瀬先生によれば、胃がんを発症する人の99%がピロリ菌感染者だというデータが出ている。ここでいうピロリ菌感染者とは、現在感染している人だけではなく、過去に感染していた(既にピロリ菌除菌済みの)人も含まれる。

ここでいくつか注意しておかなければならないことが2点ある。

まず、ピロリ菌に感染しているからといって、必ず胃がんになるとは限らないことだ。ピロリ菌にはさまざまな種類の株があるし、飲酒・喫煙・ストレスなどの環境因子や、ピロリ菌感染者の疾患感受性にもよる。また、胃の全体に炎症を起こしていて、その結果胃粘膜が腸の粘膜のように変化した(腸上皮化生)状態になると、胃がんになりやすいという。

もうひとつは、ピロリ菌を除菌しても胃がんの発症リスクは決して0にはならないことだ。いくつかの研究データがあり、ピロリ菌除菌による発症リスクの低減は、3分の2まで減らせるというデータもあれば、3分の1くらいだというデータもあるという。つまり除菌をしても、3人に1人から2人は、胃がんになりやすい状態が続くこととなる。

胃がんは罹患率、死亡率ともに高い

日本人の主な死因は「悪性新生物(がん)」「心疾患」「肺炎」「脳血管疾患」だが、なかでも「がん」は死因の3割を占め、右肩上がりだ。では、どんながんになりやすいのだろうか。それを教えてくれるのが、国立がんセンターの「2017年がん統計予測」である。

それによれば、がん罹患数では、男性は、胃がん、肺がん、前立腺がんが多く、女性は乳がん、大腸がん、胃がんが多い

がん死亡数では、男性は肺がん、胃がん、大腸がん、女性は大腸がん、肺がん、すい臓がん、そして胃がんと続く。男性で急増している前立腺がん、女性で増えている乳がんよりも、男女ともに胃がんで亡くなる人の方が多いのである。

胃がんは早期発見が最も大切だ。貝瀬先生によれば、胃がんの5年生存率は、ステージ1だと99%だという。しかも、残りの1%の多くは胃がん以外の病気で亡くなる事例が多いということだから、ステージ1で見つかれば胃がんで死ぬことはほとんどないといえる。

しかも胃がん発症者の99%がピロリ菌感染者(過去に感染した人も含む)であり、ピロリ菌除去で発症リスクが減少することがわかっている以上、ピロリ菌感染が疑わしい人は内視鏡などの検査をしたほうがよいだろう。

ピロリ菌はいつ頃どうやって感染するのか、そしてそれはどのようにして除菌するのか、については、「知っておきたいピロリ菌感染の検査方法と除菌方法」で紹介する。

(続く)

◆取材講座:第38回胸やけ・べんぴ・おなかの問題教室「ピロリ菌と胃がん-最近の話題」(日本医科大学付属病院 )

文/まなナビ編集室 医療・健康問題取材チーム