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職場の不満を分析せよ。ハーズバーグ「動機付け衛生理論」

上司が嫌だ、仕事に達成感がない、同僚が遅刻してばかり、がんばっても評価されない、オフィスのトイレが汚い……私たちの職場はどこもかしこも不満だらけだ。では、何をどこまで改善すれば私たちはしあわせになれるのか。それを読み解くカギが、ハーズバーグの『動機付け衛生理論』だ。

 あなたの不満は「動機付け要因」それとも「衛生要因」?

武蔵野大学で開かれている公開講座「お金で得られるしあわせ、得られないしあわせ」は、経営学の観点から考えたしあわせ論の講座だ。講師は武蔵野大学経済学部准教授の渡部博志先生。前の記事「切っても切れない!「しあわせ」と「お金」の関係とは?」では、同じモノでも得られた時と失った時とでは価値が違うことを紹介した。

今回は、職場や仕事の不満をどう考えるか、という話である。

渡部先生は、私たちが職場に抱く不満の中には、解決されて十二分に満たされれば満たされるほど満足度が上がるものと、解決されなければならないが、満たされすぎても満足度が上がらないものの2通りあるという。そのことを理論化したのが、アメリカの臨床心理学者、フレデリック・ハーズバーグ(1923-2000)だ。

たとえば以下の不満のうち、解決されて与えられれば与えられるほど仕事をやる気になるものと、解決されないと困るが、だからといってたくさん与えられても仕事のやる気が比例して上がるわけではないものとに分けてみよう。

(1)「上司が怒鳴ってばかりで嫌だ」
(2)「仕事がつまらなくて達成感がない」
(3)「同僚が遅刻してばかりいて不快だ」
(4)「がんばっても評価されない」
(5)「オフィスのトイレが汚くていや」

上司が怒鳴るのをやめて優しくしてくれればうれしいが、優しくなり過ぎても気持ち悪いだけ。面白い仕事をもらえばもらうほど、やる気は出るもの。同僚が定時に来ればイライラはなくなるが、かといって毎日同僚が遅刻せずに来ればこちらのやる気がどんどん上がるというものではない。がんばって評価されれば仕事もがんばろうと思う。オフィスのトイレが汚いのは困るが、ある程度きれいになればよいので、ピカピカ度が増すにつれてやる気が伸びるわけではない。だいたいこういったところだろう。

つまり、(2)(4)は、解決されて、満たされれば満たされるほどやる気になるものだ。それに対して、(1)(3)(5)は、解決することで不満を防ぐ効果はあるが、ある一定レベルを越えてしまえば、仕事のやる気には関係ないものだ。

ハーズバーグは前者を「動機付け要因」と名付け、後者を「衛生要因」と名付けた。これを「動機付け衛生理論」という。

 満たされれば満たされるほどしあわせになるとは限らない

渡部先生は言う。

「経営で活用できるヒト・モノ・カネ・情報には限界があります。その制約の下で、いかに多くの価値を生み出していくのかを考えるのが経営学です。とくにヒトの活用はとても大切です。

社員が不満ばかり抱いていると、価値ある仕事を実現できません。かといって不満を単純に解消すればよいというものでもないのです。

「衛生要因」は、これが欠けていると仕事のやる気が奪われるので解決しなければなりません。だからといって、これが十二分に満たされれば満たされるほどやる気がアップするというものでもありません。

一方「動機付け要因」は、満たされれば満たされるほどやる気が起こるものです。これこそが仕事にがんばる原動力となり、満足度に結びつきます

これは職場での仕事のモチベーションの付け方の話であるが、ひょっとしたら家庭や学校、人生などにも通用する話かもしれない。

私たちはしょっちゅう不満を抱いているが、その不満を冷静に分析していると、意外に見落としていることがあるかもしれないのだ。

世の中には、多ければ多いほど、満たされれば満たされるほどしあわせになる、とは限らないものがあることを、この理論は教えてくれます」と、渡部先生。

もういちど自分の持つ不満を振り返って分析してみることこそ、しあわせになる一歩かもしれない。

渡部博志
わたなべ・ひろし 武蔵野大学経済学部准教授 しあわせ研究所主任
松下電工株式会社(現、パナソニック株式会社)勤務を経て、一橋大学大学院商学研究科修士課程修了、博士課程単位取得後退学。武蔵野大学政治経済学部講師となり、平成28年度より経済学部経営学科准教授。平成29年度より学生部長。『企業戦略白書Ⅶ-日本企業の戦略分析:2007』(東洋経済新報社、共著)、「組織に影響を与える新任リーダー特有の要因」(『武蔵野大学政治経済研究所年報』第9号所収)など。

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取材・文/まなナビ編集室