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老人性うつ「死にたい」ともらす親に子はどうしたら?

今や65才以上が総人口の27.3%を占める時代。高齢者が増えるにつれて増えているのが老人性うつだ。それも、経済的には困っておらず、子や孫も立派に育ち、何を悩むのだろうと周囲が首をひねるような傍から見れば恵まれた高齢者が「死にたい」ともらすのだという。うつモードに入ってしまった高齢者に元気を取り戻してもらうにはどうしたらよいのか。テレビなどでも人気の心理学者で神奈川大学人間科学部教授の杉山崇先生に訊く。

うつの人は時間の感覚がなくなりがち。話を聞くのは時間を区切って

前回の記事「孤独でも貧困でもない高齢者が「死にたい」ともらす理由」では、うつになる脳の仕組みと、それを引き起こす高齢者特有の喪失体験について紹介した。子の成長と巣立ち、親しい人の死別、世の中のドラスティックな変化、そういう大小の喪失体験が積み重なるのが長生きするということだ。

いったん、うつモードになってしまうと、家族の言葉も耳に入らない。そのような高齢者に家族はどう対応すればよいのだろうか。

杉山先生は「さまざまな方法があるので、あくまでも私が対応するとすれば……」という前置きを述べたうえで語った。

「『死にたい』とばかり言われると、子を含めた周りの家族もまいってしまいます。しかし、だからといって話を聞かないとますます孤独になってしまいます。そこで、家族の負担にならないように、時間を区切って話を聞いてあげることも一つの方法です。

うつ病になると、時間の感覚がなくなります。そのため話がいつまでも終わらずエンドレスになったり、電話だと長電話になります。だから時間を区切って話を聞いた方がお互いにためによいのです。

また、喪失したもの(『もう孫も大きくなって顔も見せない』『あの友人も去年亡くなった』『みんな変わってしまった』等々)にばかり目がいきやすいので、脳の調子を整えるために喪失に目を向けなようにすることが大切です」

そのために有効な方法のひとつが、散歩だという。

景色が変わる散歩、人と交流しながら頭を使う趣味を

「体力的に無理がないのなら、散歩がおすすめです。散歩をすると景色が変わります。しかも自分で自分の体を動かして、景色が変わるのです。だから散歩はとても脳によいといわれています。

また、人と交流できる体力があるのであれば、頭を使いながら人と交流する趣味をもつのもよいです。たとえば将棋や囲碁、麻雀もいいですね。人間の脳は人間に最も反応するようにできています。たとえばカウンセラーに話している時は穏やかになるし気分もよくなるのです。

散歩仲間を作るのもいいですね。高齢者の自殺が多い青森県では、高齢者の交流の場を作って趣味活動ができるようにしたところ、かなり自殺が減ったといいます」(杉山先生)

ただし、それぞれ体力を消耗するので、あくまでも無理は禁物、とのことだ。そして一番よいのは、酔いしれられる何かを見つけることだという。

世の中にケチをつけるのはNG

「人間は何かに酔いしれられないと、人生がつまらなくなる生き物です。アイドルが好きという人は、じつはアイドルそのものよりも、自分がアイドルに熱中している状態が心地よくて、それを追い求めていることが多いのです。

生きがいのある人生には、この酔いしれられる何か、が必要です。いわば恋の対象ですね。この世界のどこかにある、喪失体験を忘れさせてくれるくらいの酔いしれられる何か──それを見つけることが、老後の人生には欠かせません。

しかし、これを難しくさせるのが、今の世の中にケチをつけること。ケチをつければつけるほど、酔いしれることができなくなるのです。

人間は年齢が上がれば上がるほど、新しいものを喜びにくくなるもの。人生100年時代に充実した生を楽しむためには、新しいものも積極的に楽しんで、酔いしれられるものを見つけられる、そういう能力が求められてくるのでしょう」

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杉山崇
すぎやま・たかし 神奈川大学人間科学部教授、心理学者
1970年山口県生まれ。学習院大学大学院人文科学研究科にて心理学を専攻。医療や障害児教育、犯罪者矯正、職場のメンタルヘルス、子育て支援など、さまざまな心理系の職域を経験、脳科学と心理学を融合させた次世代型の心理療法の開発・研究に取り組んでいる。臨床心理士、1級キャリア・コンサルティング技能士。『ウルトラ不倫学』『「どうせうまくいかない」が「なんだかうまくいきそう」に変わる本』等著書多数。

◆取材講座:メンタルヘルス・マネジメント講座「大人の人間関係論 part2」(神奈川大学みなとみらいエクステンションセンター/KUポートスクエア)

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取材・文・写真/まなナビ編集室(土肥元子)