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糖尿病を起こす薬が糖尿病を治す薬になったワケ

阿部和穂武蔵野大学薬学部教授

糖尿病の治療薬はインスリンのほか、たくさんの種類のものが作られている(その一例は「トカゲの唾液から糖尿病薬が!? その理由はなんと」参照)。武蔵野大学薬学部教授の阿部和穂先生は発展していく糖尿病薬事情について「糖尿病の基礎から治療・予防法まで」講座の中で語った。武蔵野大学文学部3年生の守田詩帆菜記者がレポートする。
リンゴから生まれた糖尿病治療薬

糖尿病は血糖値が高いことが問題なのだから、血糖値を下げなければならない(「糖尿病になる危険大 避けたい3つの食習慣とは」)。そのため、糖尿病薬にはさまざまなアプローチがある。

血糖値を下げるためにインスリンの分泌を促す薬、糖利用を促進させることで血糖値を下げる薬、そもそもの糖の消化・吸収を遅らせる薬、組織のインスリンが働かない状態を改善する薬など、いろいろある。

いま最も新しい糖尿病治療薬は、『SGLT2阻害薬』と分類されるものですが、これはリンゴの木の根の樹皮から発見されたフロリジン(phlorizin)という化合物の研究が元になっています。

『SGLT2阻害薬』は、腎臓をターゲットにした初めての血糖降下薬です」(阿部先生。以下「 」内同)

このSGLT2および『SGLT2阻害薬』については後段で解説する。

尿に糖分は排出されても血糖値は上がっていなかった

フロリジンが発見されたのは、200年近くも前の1835年のことだ。当初は、解熱剤や風邪の時に炎症を抑える薬、マラリアの治療薬などに使われていたという。だが、フロリジンを大量に投与すると尿中に多量の糖が含まれる「尿糖」になることが判明した。そのため、糖尿病を引き起こす薬として認識されていた。

だが、継続して犬にフロリジン投与をして研究をした結果、尿に糖分は排出されていても血糖値は上がっていなかった。そこで研究を重ねていくと、このフロリジンは糖分を尿中には出すけれども糖尿病を引き起こしているわけではないことが判明したのである。

グルコースの細胞への取り込みを阻害する

するとフロリジンは体内で何をしていたのだろう。

腎臓では、血液がろ過されて尿が作られるのだが、このとき血液中の糖分はそのまま尿中に移動する。しかし、健康な人ならば、最終的に排泄される尿に糖分はまったく含まれていない。

糖分は一体どこに消えたのか

実は、腎臓の尿細管を尿が流れていくうちに、糖分は体に必要なものとして回収(再吸収)されているのだ。そして、尿から糖分を回収して体に戻す役割を果たしているのが、SGLT2というトランスポーターである。

つまりフロリジンには、SGLT2を阻害する作用があるため、糖分を体に戻す仕組みが働かなくなり、糖分が排泄されてしまうというわけ。

ただし、フロリジン自体は、消化管から糖分を吸収するのも阻害してしまうという欠点があり、薬として使えなかった。そこでフロリジンに似た化合物を人工的に作り出して改良したものが『SGLT2阻害薬』と呼ばれ、2014~2015年に6種類が新発売された。

腎臓に働きかけて尿に糖分を排出させて血糖値を下げる。これはまさに逆転の発想でした。ただし、新しい薬が良い薬とは限りません。

SGLT2阻害薬は、患者さんによっては良く効きますが、利尿作用による脱水症状などが起きやすいですから、副作用に注意しながら適正に使用することが望まれます」と阿部先生は最後に念を押した。

〔今日イチ〕
1つの病気にも多種多様な薬が存在する裏には、さまざまな逆転の発想がある。それだけたくさんの薬があるからこそ、自分に合う薬を選ぶ必要がある。どんな薬にも副作用は起こるため、薬の研究に終わりはない。
〔学生記者の眼〕
横文字アレルギーのため、講義レジュメに記載された数多くの薬の名前や物質名に目が回りそうだったが、わかりやすい説明で楽しく受講できた。その名前を知っていたり、実際に服用している薬であっても、長い研究の歴史があると思うと、薬1錠が感慨深く感じられてくる。

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◆取材講座:「糖尿病の基礎から治療・予防法まで」(武蔵野大学公開講座・三鷹サテライト教室)

取材・文/守田詩帆菜(武蔵野大学文学部3年)  

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