まなナビ

簿記の楽しみ

t-99さん(46歳)/東京都/最近ハマっていること:公募投稿

 目の前に領収書を想像して下さい。もし数字で一万円と金額を記入するなら、あなたはどう書きますか?『10000円』と書いてしまったあなた。間違いではありませんが「簿記を学ぶ機会に恵まれなかったのかな」と私は残念に思います。
学生時代の私は簿記の世界に興味を持ち、公認会計士になろうと必死で勉強していました。四年間、努力しましたが合格することはついに叶わず諦めてしまいました。現在は簿記とは無縁の福祉のしごとに身を置いています。
そんな私に友人から久しぶりに連絡がありました。「経理部に配属された。初めてだからどうしよう」彼は本当に困っていました。私は簿記の勉強をするように勧めました。
簿記とは帳簿記入の略です。簡単にいえば会社の取引内容(お金の流れ、つまりお金をどれだけ使って、その結果どれだけ儲かったか)を帳面に記入する方法を学ぶのが簿記です。彼は簿記の勉強を始め、いろいろな質問を私にするようになりました。即答できない質問もたくさんあり、その都度、私は簿記の本を引っ張り出して調べていました。
きっかけは「質問に答えなければ」と使命感みたいなものでした。ただ、繰り返すうちに気が付けば、新たな発見を楽しんでいる自分がいました。例えば、簿記の本に載っている多くの計算問題は、百万円単位の数値が並んでいます。10,000円、100,000円、1,000,000円と当たり前のように載っています。仮にこれが、10000円、100000円、1000000円と書かれていたらどうでしょう。即座に一万円、十万円、百万円と判別できますか。おそらくゼロの数をひとつひとつ数えるのではないでしょうか。両者の見やすさの違いは、ずばりコンマ(,)があるかないかだけです。けれど、あるとないとではわかりやすさに大きな違いがあると知ったのです。
また、簿記に『貸倒れ』という用語があります。学生の頃は、『売掛金や貸付金などの売上債権が回収できず損失になること』と意味を暗記していました。実はこれも『会社が倒産して、貸していたお金が戻てこなくなったんだな』とすんなり理解していました。経理に携わってなくても、普段の生活のなかで自然と手にするコンビニのレシートやクレジットカードの明細書を見ることで、簿記の本に書かれている内容を学生時代とは異なった視点で捉えていることに気が付いたのです。大人になって学び直すということは、昔の自分が見落としてしまったことを発見し、人生経験を重ねた結果として新しく生まれてきた感受性との融合ではないでしょうか。私は彼に簿記を教えていたのではなく、彼が私に簿記を学ぶ大切さを教えてくれていたのです。
私は今、楽しみながら簿記を学んでいます。しかし、経理の現場では会計ソフトの使用が主流だそうです。手作業で帳簿にいちいち記録する作業は不要になり、パソコンに数値さえ入力すれば自動的に決算書ができてしまいます。便利な機能を持つ会計ソフトがあれば、簿記を学ぶことに意味はないのでしょうか?
そんなことはないと私は考えます。なぜならデーターの意味を理解しないで入力すれば誤った決算書が作成されるリスクがあるからです。入力する領収書をみて『飲食代10000円』とあれば、10000円や100000円と入力するかもしれません。大事なのは書かれている数値の意味を正しく理解できるように簿記を学んでいくことではないでしょうか。