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神社参拝、手術、軍事… シリアスゲームで楽しく学ぶ

稲葉光行先生が取り組んでいる「神社参拝ゲーム」

「ゲームばっかりしてないで勉強しなさい!」だれでも一度は言われた覚えがあるのではないだろうか。ところが近年、遊びながら学ぶゲームが脚光を浴びてきている。それが「シリアスゲーム」だ。

鳥居はどこをくぐればよいか?

立命館土曜講座で「協調的シリアスゲームの可能性」について講義する立命館大学政策科学部の稲葉光行教授によれば、楽しく遊びながら学習していくのにゲームは最適なツールだという。

とくに近年、注目されているのが、「シリアスゲーム(serious game)」と呼ばれているもの。名前だけ聞けば、どんな深刻な内容なのかといった感じだが、実態は、「遊びながら学習していく」ゲームだ。

稲葉先生が実際に取り組んでいるシリアスゲームが「神社参拝ゲーム」。鳥居のどこをくぐれば正解か、鳥居が赤いのはなぜか、などを選択しながら神社を参拝するというゲームだ。

留学生が日本の文化を遊びながら学ぶためのものとして作ったのだそうだが、作ってみたら日本人の学生も鳥居のどこをくぐるのかわからず、かえって日本人がハマるはめに。

日本人学生は自分の自国文化への理解が曖昧であったことに気づき、留学生は留学生で、自国の文化と日本文化の類似性を見つけるなど、ゲームをする中で予想外の発見が起こった。最終的に、日本人学生と留学生が協力しながらゲームを進めてゴールする、国際交流ゲームの様相を呈したという。

ちなみに、鳥居のどこをくぐればよいか、の正答は「鳥居の端」。真ん中ではないのでご注意を。

貧困を脱するためにゲームを

稲葉先生が長年追っているのが、カリフォルニア大学サン・ディエゴ校で実践されている「魔法の教室」というプログラムだ。これは、英語を学び、アメリカの文化に親しんでもらうことを目的とした学習活動で、対象はメキシコからの移民児童だ。

メキシコからの移住者の多くは、英語が使えない。日常会話はスペイン語だ。もちろん、アメリカの文化もわからない。放置しておくと、差別や貧困を助長してしまう。それをなんとかしようと取り組まれたのが、コンピューターゲームを使った教育だった。

立命館大学土曜講座「協調的シリアスゲームの可能性」

教師役(補助役)となるのは、サン・ディエゴ校の学生たち。学生たちが「ゲームをしよう」と子供たちに呼びかけ、子供たちは学生とゲームをしながら、遊びの中で英語を学び、アメリカの文化を覚えていく。学生もまた、子供とのやり取りの中で喜びや達成感を見いだしていく。

このプログラムは、すでに30年にわたって実践され、移住者の子供がサン・ディエゴ校に入学し、今度はその大学生たちが新たな移住者の子供に教えるという、まさに“魔法の”サイクルもできあがってきているという。

さまざまな分野でも活躍するシリアスゲーム

シリアスゲームは、その名のとおりシリアスな場面でも活躍している。

たとえば「手術」。医療機関のシリアスゲームとして、開腹手術をして手術スキルを確かめるゲームがあるという。

たとえば「軍事」。米軍では、訓練用のゲーム開発に力を入れている。また、戦場を3D映像で再現し、PTSDの治療に役立てようというゲームもある。

もしかして、飛行機の操縦訓練をおこなうフライトシミュレータ(模擬飛行装置)もシリアスゲームの一種と考えてよいのかもしれない。

いま日本では人々は電車やバスの車内でスマホの小さな窓を見つめてばかりいるけれども、そのコンテンツ次第で、その窓は人間の可能性を広げてくれる窓になるかもしれない。その入り口がゲームなのだ。

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取材講座:「共に遊び学ぶためのゲーム~協調的シリアスゲームの可能性」(立命館大学土曜講座第3202回)

文/植月ひろみ 写真/稲葉光行(シリアスゲーム)、植月ひろみ(講座写真)