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研究者・テリー伊藤が選ぶ、月にまつわる4冊の絵本

慶應義塾大学院(湘南藤沢キャンパス)で、自然がもたらすポジティブな作用について心理学を研究しているテリー伊藤(68才)。初めての研究発表では教室がシーンと静寂に包まれ、先生からはダメ出しを受けたが、それから1か月後——。満を持して臨んだ2回目はどんな手応えを感じたのか。

大人は「早く雲がどいてくれないかな」

2回目の研究発表の結果を尋ねると、テリー伊藤は頭をかきながら苦笑した。

「今回も大変でしたねえ。先生からは、『この先どうすんの? どうデータ取るの?』ってばっさり。前回より少し反応は良かったけど、まだまだですよ(苦笑)」

前回は『自然が教えてくれる教え』をテーマに、月や焚き火を見るとどんなポジティブな心理効果があるかを発表したが、今回は月の効果に特化。月を題材にした絵本を、心理学の観点から考察した。

「月が雲に隠れた時、どう思います? ぼくたち大人は“早く雲がどいてくれないかな”って思ったりするじゃないですか。自然を相手にしてもなお、人間は自分の都合でものを考えてるんです(苦笑)。でも絵本の世界では、そんな時は月と雲がお話をしてるんですよね。月の立場になって考えることはとても心理学的だと思ったし、そういう想像力をかきたてる月の存在が特別なものだと感じるんですよ」

たかが月でも

テリーがセレクトした月の絵本は『パパ、お月さまとって!』、『ながいよるのおつきさま』、『たくさんのお月さま』、『つきのぼうや』の4冊だ。

『パパ、お月さまとって!』
少女がパパに月をおねだりしてとってきてもらうのだが、月がどんどん小さくなって消えてしまう物語。月の満ち欠けを教えるしかけ絵本として知られるが、少女やパパ、月の気持ちがさまざまに解釈できる、大人が読んでも楽しい作品になっている。

『たくさんのお月さま』
月が欲しいとねだる幼いレノア姫に王様や家来が散々悩まされるが、答えを知っているのはレノア姫自身だったという、哲学的な要素も含んだストーリーだ。

「『ながいよるのおつきさま』に出てくる月は、自分の月明かりで動物たちに食べ物を見つけさせたり、寒い夜には“もうじき太陽が出るからね”と自分が主役じゃないことを語ったりするんです。『つきのぼうや』は、池に映った自分の姿をみてお友達になりたいと思った月が、月のぼうやに取りに行かせるんですね。こんなふうに、たかが月でも、月を見ることによってこんなにもたくさんの捉え方があって物語が誕生する。これが面白いなあと思うんです」

まだミックスフライ弁当

感性がぎゅっと詰まったテリーのレジュメは、どのページもなるほどと唸るものばかり。しかし——

「テレビの企画ならこれで通っちゃうんですよ。でも、大学院の研究としては通用しないんです。 要するに、まだ全然絞りきれてないんですよ。“エビフライの作り方”にしなきゃいけないのに、まだ何が中心なのかわからない、ミックスフライ弁当になっちゃってるし、そこにハンバーグもチョコレートパフェも乗っちゃってる状態なんでしょう。だから、先生にも指摘されるんです。この先どうするの?って。たしかに、研究発表をデータにしようにも、今のままではどう統計をとっていいのか…。正直、途方にくれてますよ(苦笑)」

ただ、クラスメートからは「この研究は続けた方がいい」と勧められているという。

「苦しくても続けていくことで、見えてくるものがあるからって。まあ、絵本とかへんてこりんなこと言ってるおれの研究がどうなっていくのか、見たいって思われているのかもしれないんだけど」

10冊読まずに済むものないかな、と

次回の発表もまた、1か月後に迫っている。

「先生からみたら、やっかいな学生だと思いますよ。たとえば先生が『この10冊を読んで感想を聞かせなさい』って言っても、おれは10冊読まずに済む、それに変わる何か面白いものないかなって思っちゃう。それは多分ずっと演出やってたせいで、人とは違う、何か面白いこと言ってやりたいなっていう思考回路があるから。テレビではそういうひらめきみたいなものが大事にされるけど、学術はひらめきじゃないものが多いから、その兼ね合いもしていかないと。まあ、まずは、ミックスフライを脱しないと、だけどね(苦笑)」

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取材・文/辻本幸路(まなナビ編集室) 撮影/渡邉茂樹