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白人の眼はなぜ青い?世界注目“アントロポシーン”とは

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“アントロポシーン エイジ”(Anthropocene Age、アントロポセンとも) という言葉をご存じだろうか。オゾン層が破壊されるメカニズムの研究で1995年ノーベル化学賞を受賞したポール・クラッツェンが提唱した概念で、直訳すれば「人類繁栄の時代」。特に気候との関りで世界的に注目されている“アントロポシーン”と気候変動を考える講座が神奈川大学で開かれている。講師は同大名誉教授で宇宙物理学者の桜井邦朋先生だ。
「アントロポシーン」は氷河期の終わりとともに始まった

人類の歩みの背景には地球の気候変動があった。氷河期の終焉とともに人類は文明化に向かう。ドイツ人の大気化学学者ポール・クラッツェンは、1万1700年ほど前に“アントロポシーン(Anthropocene)”、いわゆる“人類繁栄の時代”が始まったと提唱した。人類、その文明の発展と気候変動はどのように関わっているのだろうか。

クラッツェンは、人類が文明を生み出した、そのきっかけになったものとして気候変動を指摘した。具体的には、氷河期の終わりと、それに続く温暖化である。地球の氷河期は1万2000年ほど前に終わっている。最後の氷河期を「ヴュルム氷期」という。

桜井先生はこう解説する。

「氷河期が終わり、地球温暖化が進んだことで、人類は大移動しながら各地に文明を築いていきました。温暖化が人類の文明を誘発したわけです。シベリアから日本に縄文人が渡ってきたのも1万年ぐらい前です。

ちなみに、ヴュルム氷期の終わりのきっかけになったのは、南天の星座、帆(ほ)座の超新星爆発だと考えられます。1500光年も離れたその爆発の影響が太陽系にまで及んだのです。

この人類の文明化が始まった時代から現代までが、クラッツェンの提唱した“アントロポシーン・エイジ”です」(桜井先生。以下「 」内同)

ポール・クラッツェンはオゾンホールの研究で1995年にノーベル化学賞を受賞している研究者。なお、パウル・クルッツェンと表記されることもある。“アントロポシーン・エイジ”は2000年に提唱された。ちなみに“アンソロポロジー”(Anthropology)といえば人類学のことだ。

現在、アントロポシーンは地質学的な用語としても使われつつある。たとえば、三葉虫が生まれた時代は「先カンブリア時代」、恐竜が繁栄した時代が「ジュラ紀」などと呼ばれる。同様に、人類が繁栄した時代、その痕跡が地層に認められる時代を「アントロポシーン・エイジ」と呼んだらどうかと検討されている。人類が地層に遺すもの、それはたとえば貝塚だったり、大量のプラスティックだったりだろう。

縄文人は1万年前に日本列島へ

諸説はあるものの、人類の起源はアフリカ北東部とされる。そこから北へ向かった人はヨーロッパへ。ユーラシア大陸を横断し、シベリアからアリューシャン列島を経由してアラスカへ。北アメリカ大陸から南アメリカ大陸へと広がっていった。

「1万年ほど前、日本に北から入った縄文人が南下して縄文文化を築きました。そして4000年ほど前には、チベット高原から弥生人が米をもって日本列島に入ってきました。これで日本に弥生文化、農耕が生まれました。

日本には南から入ってきた民族もいます。サツマイモは薩摩の芋ですけど、これは南方から来たんですね。南アメリカ原産のイモが太平洋の小さな島々やフィリピンや台湾を経由して沖縄、鹿児島に入ってきたのです。

実は私、学生時代に通っていた床屋さんに、ひとつ忘れられない思い出があります。いつも切ってくれるおやじさんが、ある日『あんた、南方系だね』と言うのです。私自身は北海道から下ってきた北方系民族の末裔だと思っていたんですが、『毛が細くて柔らかい、これは南方系だよ。北方系はもっとごわごわして色も黒い』と言うんですよ。そうかと思いましたが、ちょっとびっくりしましたね(笑)」

白人の目が大きいのは日光の弱い土地にいたから

このように身体的特徴は土地やそこの気候と関係している。

白人はなぜ大柄なのか? なぜ目が青いのか? これも祖先が棲みついた土地の気候特性に順応したためである。

「動物は食べたり飲んだりしてエネルギーをつくっては外に放出します。体の表面から放出されるので、表面積と体積の割合から、体が大きいほうが熱効率はいい。北の方に行った人たちは、寒冷地だから大型化してエネルギーのロスを小さくする必要があったのです。また強い日光に対して皮膚は色が濃くないと耐えられませんが、寒冷地は日光が弱いから皮膚の色が薄くても大丈夫です。だから北方へ行った人たちは白人になりました

それから白人は目が大きいですね。あれは祖先が暗い洞窟の中に棲んでいたからです。寒いから洞窟に棲んでいたのです。光の少ない場所だから、白人の目には瞳孔の開閉をコンロトールする皮膜がついていない。それで今でも彼らは明るい日光に耐えられないから、すぐサングラスをかけるのですよ。私たちは瞳孔を調整する皮膜がついていますから、明るい太陽の下でも白人の真似をしてサングラスをかけたりする必要はないわけです」

人類の文明の始まりも、体格や体質を決めるのも気候であるといっても過言ではない。寒冷期も温暖期も、寒い土地も暖かい土地もあって、人類は発展し、多様化してきたのである。

桜井先生の講義『“人類の時代(Anthropocene  Age)”と氷河時代(Ice Age)との関わり』は、今後、中世に世界に訪れた大温暖期や科学文明の発展と小氷河期の関わり、今や世界中の問題になっている地球温暖化についてなどについて講義予定である。

◆取材講座:「“人類の時代(Anthropocene Age)”と氷河時代(Ice Age)との関わり」(神奈川大学みなとみらいエクステンションセンター)

桜井邦朋
さくらい・くにとも 神奈川大学名誉教授、早稲田大学理工学術院総合研究所招聘研究員
1956年京都大学理学部卒業。理学博士。1968 年NASA ゴダード宇宙飛行センター上級研究員。神奈川大学では工学部長、学長を歴任、2004年より現職。専門分野は高エネルギー宇宙物理学、太陽物理学、宇宙空間物理学。著書に『生命はどこからきたか――宇宙物理学からの視点』(御茶の水書房)、『ニュートリノ論争はいかにして解決したか』(講談社)等多数。

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取材・文/佐藤恵菜 写真/(c)Serg Zastavkin/ fotolia