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白い垂れ幕を見たのがきっかけで大学院に通うことに

「法政の前のリンコスで昼と夜のお弁当を買って教室に行き、帰りにはまたリンコスでお惣菜を買って帰って勉強しました」--。40才で退社。中小企業診断士の資格とMBAを取得できる法政大学経営大学院イノベーション・マネジメント研究科に通う高田さんの「やってしまえ」まなびライフ。

「大学は、中央大学経済学部。高校からの推薦入試でなんとなく入ってしまった学校で。経済のしくみもよくわからぬまま卒業してしまいました(苦笑)。ODAをテーマにした卒論は、ほとんど参考書籍の写し書き。おかげでいま苦労していますねえ」

そう声を上げて笑うのは、法政大学経営大学院イノベーション・マネジメント研究科に通う、高田雅子さん(45才)。大学卒業後は、金融機関に入社し、20年近く勤務してきた。

「担当していた業務は“審査”です。金融機関として、お金を投じる先のリスクを報告するのが仕事でした。

物事がわかってくる30代から仕事が面白くなってきましたし、待遇面でも何の不満もありませんでした。ただ、30代後半になると仕事が忙しすぎて疲弊していたし、このままじゃ(自分の知識は)全然足りないな、勉強したいな、という罪悪感も少しあったんです」

有楽町の交通会館をチェック

超多忙なプロジェクトを終えたある日、オフィスの近くで、運命の出逢いがあった。

「首都大学東京の“Open University”という、10mくらいの、白地に黒い文字のシンプルな垂れ幕が視界に入ったんです。フラフラ~っと見に行ったら、中国語の講座があったので、すぐに申し込みました。仕事で中国語の契約書もたくさん読んできたので、しゃべれたら楽しいだろうなって。それが41才の時でしたね」

「もともと習い事が好きで、20代から油絵、心理学、生け花、英会話、着付けなど10以上に通ってきたんですが、飽きっぽくて、モノにならなくて(笑い)。でも、何かを体系的に勉強したいという気持ちはあって、ネットが普及する前から、有楽町の交通会館の地下によくチェックしに行っていたんです。今はないんですが、当時はそこに、科目履修生の募集をしている各大学のパンフレットがずらーっと置いてあったんですよ」

2012年に会社を退社。その後、友人の会社を手伝っている間、中小企業診断士へのチャレンジを思い立った。そして1次試験、約2割(22.42%/平成24~28年度、合格率平均)という狭き門を、なんと独学で通過!

そこには、「大人学び」の秘訣があった。

「中高年にとって、記憶力との闘いはたしかにツライものがあります(笑い)。とくに1次試験は7科目あるので、7つの皿を同時に回す皿回しみたいなもの。あっちのお皿を回していると、こっちのお皿を忘れていて、大変でした(苦笑)。なので、ひたすらノートに書いて手に覚えさせました」

「それと、自分に合うテキストを探しましたね。デザインや質感など、自分にフィットしないと頭に入らないので、合わないものはさっさと新しいものに変えていました」

「あとは、生まれて初めて30分刻みの手帳を買いました。年間スケジュールを立てて、月間、週間、デイリー、時間に落としていく。そうしておくと、進捗状況がわかるし、勉強のリズムが作れるので役立ちましたよ」

大学受験と違うのは、自分の学習パターンがわかって、開き直れることじゃないでしょうか。たとえば、夜に何やっても頭に入らなかったら早く寝るとか、行き詰まったらさぼるとかのメリハリがつけられる。その方が“生産性”をアップさせられると思うんです」

かくして2次試験。惜しくも不合格だったが、そこで、修了すれば2次試験免除となる法政大学経営大学院の存在を知る。MBA(経営管理修士)にも興味があった高田さんは、1年間で中小企業診断士の資格とMBAも取得できるコース(昼間MBA特別プログラム)に進学した。

「金融機関での仕事は、(中小企業診断士と)結構近い現場だと思っていたのですが、金融機関側と経営者側では真逆のモノの見方をすることが新鮮でした」

「私がいた金融機関側(審査)は、経営上、不確実な要素を排除しなければいけないので、どうしても審査して、たたく形になってしまうんです。人員が少なければ、それが問題(リスク)、で終わり」

「でも中小企業診断士として経営者側に寄り添うと、そのリスクが個性になります。『人員が少ない中でも、こういうスキルを持った人がいるなら、こんなマーケットでより効果的に売れますよ』と一緒に考えて差し上げることができる。この方が、より建設的で楽しいと思ったんです」

体力がもたないとか、家族に迷惑がかかるとか

高田さんが大事にしているのは、“面白そうだな”という直感。

大学入試も、就職も、習い事も全部直感で決めていて、計画性がないんです(笑い)。でも、人生ってワクワクするかどうかじゃないかなって。年齢を経ると計算しちゃうじゃないですか。こんなことこの年齢で無理だとか、体力がもたないとか、家族に迷惑がかかるとか、仕事どうしようとか。考えすぎて、かえって機会を逸しちゃうことってよくありますよね。でも実は、やっちゃったらなんとかなる。

というか、いつまでも“今”が続くと思うのは、根本的に間違ってるんじゃないのかなって思ったんです。収入のことも年齢のことも考えるのはやめようって。いつ何があるかわからないって。身内の不幸があったりすると余計にそう思いますよね。だから、“気になったことはやってしまえ”。これが夫と私の共通言語なんです」

卒業後、中小企業診断士としての仕事はもちろんだが、それ以上にやってみたいことがある。

「定年したかたや、子育て中の女性、ハンディキャップを持ったかたなど、なんらかの事情で活躍できる機会が失われている人が、もう一度アクティブに稼げるような場ができないかと考えているんです。どうやって計画書をまとめるんだって教授にはつっこまれてますけど(笑い)」

充実ぶりがうかがえる高田さんの大学院生生活。しかし、この1年を振り返ると思い出すのは「リンコス」だ――

「家事、全然しなかったですね(苦笑)。こんなに家が汚くても大丈夫なんだって知りました(笑い)。勉強が間に合わなくて学食にも行けないことも多かったので、朝、法政の前の『リンコス』でお弁当を昼と夜の分を2個買って、教室に行くんです。家のごはんも『リンコス』のお惣菜。夫には“スマン!”の連続でした」

(続く)

文/まなナビ編集室 写真/Adobe Stock