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注目の使える英語力指導法 CLIL は「英語で学ぶ」

世界トップクラスの名門として知られるアメリカのハーバード大学

学校英語はムダ!話せるようにならないじゃないか――こうした批判をよく耳にする。そんな汚名を挽回すべく、英語教育の世界ではいま、新たに「使える」英語力養成を目指した「CLIL(クリル)」と呼ばれる教育法が脚光を浴びている。

ハーバードやイエールを目指し始めた名門高校

東大合格者数ナンバーワンを誇る開成高校から今年、ハーバード、イエール、プリンストンといった海外大学の合格者が20名も出たことが話題になった。上智大学短期大学部英語科准教授で、上智大学公開講座「小学校英語教育入門」をコーディネートする狩野晶子先生はこう語る。

「海外の大学を視野に入れている中高一貫校などの場合、中学受験に英語を課す動きも出てくるはずです。その場合、文法理解より重視されるのは、おそらく臆せずコミュニケーションする力。自分で考え、わからないことは質問したり仲間と相談したりできる、総合的な言語力を測ることになるでしょう」

それこそ CLIL が目指すものだ。CLIL とは、科学や歴史といった各教科を母語以外の言語で学ぶ教育法で、正確には「内容言語統合型学習(Content and Language Integrated Learning)」と呼ばれる。EUの言語政策の一部として、ヨーロッパで1990年代半ばに提唱され、現在では欧州各国で取り入れられている。

科目内容Content)と語学力Communication)を同時に獲得し、さらには、批判的・論理的な思考力Cognition)、協同学習Community)も重視されている。この「4つのC」をバランスよく育成するのが CLIL の特徴だ。

理工学部で、洋書の化学の入門書を使った授業

日本の大学で CLIL の最先端を走っているのが上智大学だ。初めて CLILプログラムが開講された2010年度は、定員を大幅に上回る受講希望者が殺到。2014年度からは正式に1年生の必須科目に組み込まれた。

例えば理工学部では、洋書の化学や生物の入門書を使った授業が行われている。教員は英語教育ではなく化学や生物の専門家だ。必ずしもネイティブの教員である必要はない。特に理工系の分野では、以前から英語が世界共通語。英語の論文を読み書きする機会が多く、留学経験があるような教員揃いだ。このようなカリキュラムの中、英語の授業は CLIL のアプローチに根ざして行われている。

狩野先生は、「私は英語にはもちろん強いほうですが、化学や生物のテキストを見せられてもチンプンカンプン。深い内容は教えられません。各分野の専門の先生方に担っていただき、その分野の英語と、英語自体の学びを結び付けていくことに、 CLIL の意味があります」。

小学生に英語を教えられる教師(教員)が少ない

2020年からは小学校英語も本格化する。ここでも CLIL的な指導法を期待したいところだが、ネックは教員不足。小学校教員は大学の教職課程で英語指導法が必修ではなかったため、自信を持って教えられる教員が少ないのが現状だ。

「ご自分が中学校で習った勉強法のイメージを持っている方が多いのですが、中学生と小学生ではまるで違います。例えば中学英語の最初に習うbe動詞は、一般動詞より不規則に変化しますから小学生には難しい。疑問文にするときは主語と動詞をひっくり返す、というルールも抽象的すぎて腑に落ちません」(狩野先生。以下「 」内同)。

たしかに。英語に限らず、フランス語でもドイツ語でも、英語のbe動詞にあたる動詞がもっとも複雑に活用し、学習者を悩ませる。狩野先生は、基本動詞ほど、活用も発音も不規則になるという。

「たとえば、基本中の基本動詞である“do”。これを“ドゥー”と発音するのは、それを知っているから。知らなかったら“ド”と発音するでしょう。その3人称の“does”も、英語の発音ルールでは“ドゥーズ”です。でももちろん正しくは“ダズ”。基本動詞ほど難しく、奥が深いのです。これを真正面から教えては、英語嫌いを作ってしまいます。そこで、英語に初めて接することになる小学校の現場では、自然にそういったことを覚えられるよう、工夫しながら教えていくことが求められます」

こうした課題を抱えつつも、2020年はもう目前。大学教育が変わり、小学校英語も始まれば、間にはさまる中学・高校の英語教育も変わらざるを得ない。

「今の変化は、小学校から大学まで、すべての英語教育の過程で、コミュニケーションの道具としての英語という位置づけを確立するチャンス。なんとかその方向に持っていきたいですね」

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文/小島和子 写真/小島和子(講義風景)、(c)Bastos、(c)TungCheung / fotolia