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欧米人を説得したいとき、手は机のどこに置く?

Business Discussions and Negotiations in English

Business Discussions and Negotiations in English

「あうん」の呼吸や、空気を読むことがよいとされる日本人。それゆえ英語に多少自信があっても、外国人との話し合いに恐れを抱いてしまう人も多い。欧米人とのビジネスの場において「いかにして自分のロジックを組み立てるべきか」「どうしたら有利な交渉ができるのか」といったディスカッションスキルを教える講座が上智大学で開催されている。

部下の「給料を上げて!」はやる気の表れ?

同じ日本語でもただの世間話とビジネスの交渉術では違うのと同様、普通の英会話とビジネス英語の間には大きな違いが存在する。

いかにボキャブラリーが豊富で、上手に英語を話せたとしても、欧米流のビジネスのマナーを知らないことには、交渉の場では役に立たない。

上智大学国際教養学部国際教養学科教授のパリッサ・ハギリアン先生の公開講座「Business Discussions and Negotiations in English」では、英語を使ったビジネスシーンを想定し、欧米人との交渉時に大切なロジックの組み立て方やプレゼン方法などを紹介している。

この日のテーマの一つに上がったのが、「どうやって交渉中に自己主張をするか(How To Push Your Opinion?)」。

日本では、部下は上司の言うことには絶対服従。また、下請けはクライアントの提案に基本的には従う……というのが当たり前だが、「欧米では上下の立場に関係なく、自分の利益のために、交渉することは当たり前のこと」とハギリアン先生は語る。

「たとえば、部下が上司に『給料を上げてほしい』などと自分の待遇改善を申し出たり、クライアントにプロモーション計画の変更を交渉したりすることは、日本では違和感があるかもしれませんが、欧米ではまったく『失礼』には当たりません。むしろ、立場が下の人間が、いろいろと提案することは、相手にやる気を見せることにもつながります。ただ、自分の意見をプッシュする際には、たとえば、『給料を増やしてくれるなら、◯◯を自分が引き受ける』などといった、交換条件を用意することが肝心です。

誰かと議論する際には、『自分のキーポイント』と、相手を納得させるための『3つの理由』が必要です。自分の主張に対する根拠がないと、受け入れてもらえませんので、必ず、客観性のある理由を3つ以上は用意しましょう」

Business Discussions and Negotiations in English

ボディタッチは、マウンティング

欧米でのビジネスで重要なのは、それだけではない。言葉以外のノンバーバル・コミュニケーション(非言語コミュニケーション)も大切になってくる。

「たとえば、テーブルに着いたときに、ディスカッション相手と自分がどこに座るかも非常に重要です。自分がなにか強く主張するのであれば、説得したい相手の正面に座るのが一番効果的です。正面に座ることで、心理的に相手に圧迫感を与えることができるので。逆に、自分が『相手の話をじっくり聞く』のであれば、相手の正面ではなく横の席に座るようにしましょう。これはカフェテリアトークと呼ばれるのですが、横並びで座るとよりリラックスして、心理的にも対等な状態になるので、話がしやすくなります」

また、交渉中は、テーブルに置く自分の手の位置にも注意が必要だ。

「交渉のテーブルについたら、両手はテーブルの上に出しておきましょう。テーブルの下に手を置くのはダメです。また、日本人がやりがちなのは、テーブルの上の資料にばかり見たり、資料を手でいじったりするというもの。資料に気を取られているように思われてしまうし、閉鎖的な印象を与えてしまいます。

それから、話に詰まったからといって、交渉相手から目線をそらすのもNG。目はしっかりと交渉相手に向けていること。視線をそらして、窓の外を見たりしないようにしましょうね」

そして、欧米でのビジネスにおいて、大事なコミュニケーションのひとつとなるのが「ボディタッチ」だ。日本では、近年「ボディタッチ=セクハラ」というイメージが強いが、欧米でのビジネスシーンでは、ボディタッチはある種の「マウンティング」(自分の方が相手より優位にあるとアピールすること)のような側面もあるという。

「欧米では、ボディタッチはコミュニケーションのひとつ。上司が部下に対して自分の権威を示すために、挨拶のときに肩や腕などを軽くタッチするケースが多いです。先に体に触ったほうが、主導権を持っているイメージですね。だから、女性がビジネスの交渉に立つ際には、相手に軽く見られないように、交渉開始の挨拶時に、女性から先に男性にボディタッチすることも多いですよ」

Business Discussions and Negotiations in English

TOEIC730点以上のレベル

「文脈を読んだコミュニケーション」が重視される、日本はかなりのハイコンテクスト文化だとして知られている。よくいえば「空気を読むのがうまい」が、悪くいえば「回りくどい」。

なぜ、こうも欧米と日本ではコミュニケーションの文化が違うのか。これに対して、ハギリアン先生は語る。

「これは私が考えた説ですが、日本は歴史的にも災害が多い土地なので、周囲の環境のちょっとした変化を見逃すことが命取りになる。だからこそ、周囲の変化に非常に敏感で、注意深い性質があるように思います。人間関係においてもそれは同様で、欧米のように直接言葉にせずとも、お互いに察する『呼吸を読む』というコミュニケーションが発達しているのではないでしょうか」

なお、講義中の言語はすべて英語のみ。講義では、先生の解説のみならず、ほかの生徒と2人1組のペアを組んで、相手を交渉相手に見立ててディスカッションをするエクササイズも頻繁に実施されていた。

受講生の多くの人は海外駐在経験があってかなり語学経験が豊富な印象。受講の目安はTOEIC730点以上、TOEFL79点以上くらいのレベル。

講義に参加していた外資系サラリーマンの30代男性は、「外資系企業にこのたび転職したのですが、外国人上司とのコミュニケーション方法を学ぶために来ました。実践的な内容なので、実際の現場でもかなり役に立っています。通常、土日はダラダラしてしまうところですが、この講義は土曜日に3コマ行うので、時間を有効活用できるのもいいですね」と授業に対する感想を語っていた。

また、70代男性は「若い頃から英語を使う仕事をしていたので、普通の英会話教室で英語を学ぶだけでは物足りない。だからこそ、自分の英語力をさび付かせないために通っている。また、単純に英語を学ぶだけでなく、英語でビジネスを学べるところもおもしろい」と、語学教室との違いについて指摘していた。

〔今日の名言〕「女性からのボディタッチは欧米のビジネスシーンでは当たり前」
〔受講生の今日イチ〕「講義中は講義だけでなく、エクササイズが多いので、かなり実践力が高まる気がします」(50代男性)
〔大学のココイチ〕上智大学キャンパス内にある1号館は、大学内で最も古い校舎。スイスの建築家であるマックス・ヒンデルが手がけた趣あるレンガ造りの外観が魅力。

〔おすすめ講座〕Business Discussions and Negotiations in English
Cross-cultural Business Communication

取材講座データ
「Business Discussions and Negotiations in English」 上智大学公開講座 2017年1月7日~1月21日

2017年1月14日取材

文/藤村はるな 写真/まなナビ編集室