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植物は時に有害なもの、ナス科や山菜の大量摂取に注意

「トマトもピーマンもジャガイモもシシトウもナス科」

武蔵野大学の公開講座「知っておきたい漢方いろは」は、漢方や薬学の基礎的な知識を教えてくれる講座だ。講師を務める油田正樹先生は、今春、同大薬学部教授を退任したばかりの薬学のスペシャリスト。油田先生は、植物は基本的に危険なものだと考えたほうがいいと語る。

ナス科の野菜はナスだけにあらず。食べすぎには要注意

トマトを食べて、なんか口がピリピリするなと思った経験のある人はいないだろうか。植物には毒を持つものが多い。改良された野菜であっても油断は禁物だ。とくにナス科はもともと有毒なものが多いという。

ナス科の野菜というと、ナスくらいかと思うかもしれないが、じつは、トマト・ピーマン・シシトウ・トウガラシ・ジャガイモもナス科だ。

たとえばジャガイモの芽にはソラニンがあり、調理の時には芽を取り除きましょうと調理実習で習う。また、トマトの葉や茎にもトマチンという毒性物質があり、実以外は食べないほうがよいとされる。もちろん可食部には毒性は残っていないが、あまり大量に食べすぎるのはよくない、と油田先生は言う。

古くから薬物として利用されたてきたナス科植物

ナス科植物はその毒性が古くから、薬物として利用されてきた。たとえばシュメール人たちが医療に使ったマンドレイク・ヒヨスや、ヨーロッパで使われたベラドンナもナス科で、幻覚作用をもつ(前の記事「古代人も使用、ハリポタ・ドラクエ・モンスト登場薬物」)。

日本でよく見かけるチョウセンアサガオもナス科で、誤って食すると、意識障害を引き起こす。規制されていない植物の中で最強の有毒植物といわれるほどである。2006年、沖縄で実際にあった事例では、チョウセンアサガオに接ぎ木して栽培したナスを食べた夫婦が、一時的に記憶を失う食中毒症状に陥ったという。食すると精神が錯乱して走り回ることから名がついたとされるハシリドコロも、ナス科である。

「私たちがいま“野菜”と聞いてイメージするものの多くにナス科の植物があります。食べられる部分だけを食べている分には問題はありませんが、同じ野菜だけを毎日大量に食べるのは禁物です。“五十肩などで関節が痛むときに、いつも食べているナス科の野菜を絶ったところ、関節の痛みが改善された”という話を聞いたことがあります。なんとなく体調が悪くなったという人や、アレルギーの人は、ナス科を食べすぎていないか、ちょっと注意してみてもよいかもしれません」(油田先生。以下「 」内同)

山菜は特に食べすぎないように

日本人が大好きな山菜は、野菜以上に食べすぎは禁物だ。ワラビなどはたくさん食べると貧血を起こすと言われているが、意外な山菜も危ないという。

「タラの芽とか、コシアブラ・ふきのとう・せり・山うどなどは、おいしくてつい食べすぎてしまいますが、毎日食べると尿路結石になることがあります。和食の調理法で“お浸し”がありますが、あれは毒性物質が浸した水に流れ出るので、とてもよい調理法だと思います」

薬の大半は植物から抽出した成分でできている

「植物は基本、毒があると思ってください」と油田先生。なぜなら、いま世の中にある薬の多くは、植物から抽出した有毒成分をもとにできているからだ。

たとえばセイヨウイチイ。赤い実は食用になるが、葉には強い毒性がある。ドイツで、放牧していた羊が死んだので調べたら、イチイの葉がきれいになくなっていた。そこでイチイの食中毒で羊たちが死んだことがわかった。これを調べたドイツの薬学者ルーカスは、のちに、イチイの葉からタキシンという成分を抽出した。これが抗癌剤パクリタキセル(商品名タキソール)の原料になったという。

家畜がその葉を食べて死んだ事件としては、キョウチクトウの事例もある。千葉県で牛の飼料に誤ってキョウチクトウの葉が混入してしまい、牛が死んだことがあった。キョウチクトウ科は毒性が強いので要注意だ。

水仙の葉をニラと間違えたり、紫陽花の葉を大葉と間違えたりして食し、中毒になる事例もよく報道される。植物は私たちが思う以上に有毒なものであることを、くれぐれも肝に銘じたい。

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文/まなナビ編集室 写真/(c)NOBU / fotolia