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未成年にも認められる安楽死。5つの基準とは

「Death Education~ 死と向き合って生きる」の講座風景

家族や友人など、大切な人がもう治らない病気で死ぬまで苦しみ続けるのならば、いっそのこと早く楽にしてあげたい……。そう思う人がいたとして、その人を正面から責めることができるだろうか。高齢化が進む今、「安楽死」や「尊厳死」に対する関心が一層高まっている。

ヒトラーが生み出した「安楽死プロジェクト」

「そもそも『安楽死』という概念が生まれたのは、産業革命時です」と語るのは、早稲田大学名誉教授の大槻宏樹先生。現在、大槻先生は、早稲田大学エクステンションセンターで開講中の「Death Education~ 死と向き合って生きる」で、死を多角的な視点から見つめ直すことをテーマに、講義を行っている。

本来は、人々の生活を爆発的に豊かにするはずの産業革命が、なぜ安楽死という概念を生むことにつながったのか。

「18世紀半ばにイギリスで起こった産業革命により、労働力、お金、時間……と、あらゆる物事の効率化が進みました。『効率=社会の価値』と考えられ、役に立たないものにお金や手間をかける必要はないという概念が生まれていったのです。

当時、ノーベル生理学賞・医学賞を受賞したフランスの外科医・生物学者アレキシス・カレルも、著書『人間 この未知なるもの』のなかで、『不幸な者、利己主義者、愚鈍な者、役に立たぬ者の寿命をなぜ延ばすのか』と論じたことで有名です」(大槻先生)

カレルの発言は、いまではまったく考えられないような内容だが、こうした優生思想に影響を受けたのが、ヒトラーが率いるナチス・ドイツ。ヒトラーというと、ユダヤ人の大量虐殺を連想するところだが、実はヒトラーの抹殺対象となっていたのはユダヤ人だけではなかった。

「ヒトラーは、純粋なアーリア人の遺伝子を残すためには、欠陥のあるものは排除しようという考えを持っていました。結果、知的障害や身体障害、精神障害のある人々も同時に根絶しようという考えを抱いたのです。そこには、てんかんや統合失調症、認知症などの精神疾患や神経疾患を患う人々も含まれていました。医療機関で医師にこれらの疾患を持つ人々を診断させ、基準を満たした人々を収容所に入れ、『安楽死プログラム』と呼ばれる同意書にサインをさせては、ガス室送りにしていたのです」(大槻先生)

1984年、オランダの最高裁で可決

ヒトラーの大量虐殺は、倫理や人間性を一切無視した「安楽死をする人間=生きる価値のない人間」としたものだった。昨今では、回復の見込みのない耐え難い苦痛を持つ心身の病気を患った場合、その苦しみから逃れる術として「死の選択」があり得るのかどうかが議論されている

では、現代における「安楽死」は、どのような観点から国によっては認められているのだろうか。

「世界で最初に法律的に『安楽死』が認められるようになったのはオランダです。とはいえ、ヒトラーのように、人間の価値を認めないからこその安楽死ではなく、むしろその逆。1984年にオランダでは『耐え難い肉体的苦痛があるときは、医師は治療よりも苦痛を取り除くべし』との意見がでて、最高裁で可決されました。そして、2001年に安楽死法が上院で可決されました」(大槻先生)

なお、安易な自殺などを生まないために、その死の選択が「安楽死であること」を認めるためには5つの条件があるという。

「ひとつが『患者の明確な意思』。二つ目が『患者の耐えがたい苦痛』。三つ目は『その病気に回復の見込みがない』ということ。4つ目は、『代替治療法がない』ということ。そして5つ目が『複数の医師の判断』です。これらをすべて満たしたものが、安楽死と認められます」(大槻先生)

身体的な病気の場合はまだ診断がしやすいが、深刻な精神病などを抱えている患者、さらには認知症の患者であってもこの条件が当てはまるという考え方もある。このため、明確な「耐え難い苦痛」を図る基準はどう考えるべきか、という議論も続いているという。

「現在、オランダでも、この法律が適用されるのは16歳以上です。12~16歳未満の子供の場合は親の同意が必要です。なお、ベルギーでも安楽死法は可決されています。ベルギーでは『子どもに権利がないのはおかしい』とのことで、12歳以下の子供の意思表示が認められるという法案が可決されました」(大槻先生)

現在日本では、回復が見込めず、人体がすでに人生の最終段階を迎えている場合には積極的治療を選択しないなどとする尊厳死については、社会的な合意が徐々に形成されつつあるという見方もある。しかし積極的に死を選択する「安楽死」については、時々メディアで取り上げられるに過ぎない。

生きることは素晴らしい。
死ぬこともまた、
素晴らしくありたい。

大槻先生が紹介した、日本で尊厳死を意思的に選択した長谷川聡子さんの言葉だ。

治療の効果がなく耐え難い心身の苦痛を伴う状態でも、死ぬまでそれに耐えるべきなのか否か。それを大切な人に強いることができるのかどうか。超高齢社会の今、本人が死を選択する権利を法制化すべきかどうかも含め、死について私たちが真剣に考えざるを得ない時がやってきている。

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取材講座:「Death Education 〜死と向き合って生きる」(早稲田大学エクステンションセンター早稲田校)

文/藤村はるな 写真/まなナビ編集室