まなナビ

朗読の講座に参加して自分の話し方に自信がついた

佐藤敏弘さん(56歳)/埼玉県/最近ハマっていること:戦後詩、戦後~現代の音楽

大学の公開講座がとんでもないことになっている!それだけを伝えたくて応募しました。

今年の5月13日(土)、獨協大学・A棟503教室に初めて足を踏み入れた時の緊張と、わずか2か月後に全10回分の講座を修了し、正門をあとにした時のすがすがしい感動は、今も忘れることができません。講座名は獨協大学オープンカレッジ「朗読入門―聴き手の心に届けるために」、講師は69歳にしてNHKの現役アナウンサー、梅津正樹さんでした。ちょっと大げさに聞こえるかもしれませんが、たった2か月で、人生、変わりました。

受講のきっかけは人事異動です。34年間勤めた編集部から宣伝部に異動になり、自分で記事を作る仕事から、人さまが作った本を世の中に宣伝する仕事に180度変わりました。編集者はいつも締切りに追われ、スタッフどうしの言葉のパス回しも速く、とにかくせっかち。一方宣伝部は、編集者の話をじっくり聞き、資料を使って予算案を通し、クリエーターには完成イメージを丁寧に伝え、と納得と合意を積み重ねていかなければ仕事になりません。いざ異動になってみると、ひょっとして自分は、とても早口で、滑舌も悪く、乱暴なしゃべり方をしているのでは、と不安になりだしたわけです。

そんな折、通勤電車の車内広告で獨協大学の公開講座を知り、ネットで調べたら、朗読の講座に目が止まりました。講師の梅津さんは現役でニュースを読みながら、NHK日本語センターの専門委員として日本語にも造詣が深く、「ことばおじさん」というキャラクターで番組も持っていたとのこと。家からも近いし、話し方のカウンセリングを受けるつもりで、一度授業をのぞいてみようと思い立ちました。

結果は驚きと発見の連続。生徒は私のほか11人すべてが女性、みんな読み聞かせや録音ボランティアをしているベテラン朗読者。授業は1講義2コマぶち抜きの3時間、ニュース、教科書、エッセイから芥川龍之介、宮沢賢治へと難度を上げながら、ひとりずつ同じ原稿を朗読してゆきます。先生いわく「ボイストレーニングで声を作ることはしません。ひとりひとりが自分の声と、読み方で、書かれていることを相手に自然に伝えられればいいんです。ここにいる12人には12通りの自然があります。互いに聞き合いながら、自分らしさを探していきましょう」。私の特徴は早口ではなく、間合いがとれていないだけなので、スピードを落とす必要はない、息継ぎの間をあけるだけで充分に伝わるとのこと。「ふだん早口の人が無理にゆっくり話すのは不自然で伝わりにくいですよ」とは目からウロコでした。

教室では、先生も生徒もそれぞれが個性を持った朗読者。生徒どうしで感想を語り合う場面もあり、学びの空気がこんなにも自由で創造的だったことは、学生時代にも経験がありません。思えばこれまで、これほど熱心に人の声に耳を傾けたことはなく、こんなに一生懸命自分の声を聴いていてもらったこともありません。最終回、宮沢賢治の風の又三郎を読んでいる最中、思わず胸が詰まって声が嗄れてしまいました。それがなぜだか今もわかりませんが、講師のメソッドと教授法が素晴らしく、スポンジが水を吸うように技術が身につき、それをあたたかい空気のなかで発表できている夢のような時間に酔いつぶれたのだと思います。40年ぶりの学校通いの結果、話し方は確かに変わりました。何より間合いをとることで、人の言葉を聴ける余裕ができました。今度は学んだことを血肉にするため、もう1クール同じ講義を受けるつもりです。いやあ、大学の公開講座、先生も生徒も熱かった!

(作文のタイトルは編集室が付けました)