よし、ヒミツのワザを教えてあげよう
そう司会の学生が切り出すと、子供たちが一斉に手を止めて前を向いた。
「グリスを塗りすぎないことがポイントだよ」という“ヒミツのワザ”を聞くと、また手元に視線を向け、教えてくれている大学生のお兄さん、お姉さんからグリスの塗り方を教えてもらい作業に没頭するのだ。
「早く終わったね。次はここを作るから説明書を読んでおいてね」
「ネジはちゃんと閉められた?ちょっと見せてね」
「お兄さんがもっているから、この小さいほうのネジ回しでここを回してね」
なんとぜいたくなことにこの講座では2人の子供に対して1人の学生がつきっきりで教えてくれる。
2人に対して1人だから、どちらかが早く終わってしまってもお兄さん、お姉さんが飽きないようにしっかりとサポートし、見守ってくれるのである。しかも、それだけでも手厚いのに、それ以外にも“遊撃手”という全体を見守る4、5名のサポーター学生が子供のことを気にかけて見守ってくれているのだ。
司会の学生も、カメラマンをしている学生も、何かあればサポートに入って子供たちの工作を手厚くサポートしているのだ。…だからなのか、お疲れのお父さんの何人かは外野席でウトウトとしていた。
「ロボット工作、小学生」で検索
“競争倍率5倍の講座の人気の秘密”を探るため、子供以上に目を輝かせている外野席の親御さんにインタビューをしてみた。
~30代後半のお母さん~
・参加しているお子さん:9歳の息子さん
・どうやってこの講座を探したのか?:地元にはロボット教室などもないため、インターネットで「ロボット工作、小学生」といったキーワードで検索して探して見つけた。
・なぜこの講座を申し込んだのか?:小学生が参加できるロボット教室はいくつかあったものの、1回だけ参加できるものはほとんどなかった。
・この講座を選んだ決め手は?:参加しやすく、大学生が教えてくれるところに興味を持ったので。
・参加してみてどう感じたか?:集中が切れやすい子供だったので心配だったが、2人1人というほぼマンツーマンと同じ環境で教えてもらえていることがとにかく魅力的。一緒に受講しているお子さんとともに楽しんでいる様子を見ることができ、参加して本当に良かった。グループワークだったらきっと飽きてしまっていたはず。想像していた以上に贅沢な講座で、大学としてこういった取り組みをしていることにとても好感が持てた。
~30代後半のお父さん~
・参加しているお子さん:7歳の息子さん
・どうやってこの講座を探したのか?:過去に類似の講座に参加したことがあったため存在は知っていた。最初にこの講座を知ったきかっけは、奥さんが探してきた。
・なぜこの講座を申し込んだのか?:地域や学校の同級生に工作好きな友達が少ないこともあり、同じ趣味の他の子供たちと一緒に取り組める=仲間がいる場で一緒に工作ができることが魅力。子供が好きなことをやらせてあげたい。
・この講座を選んだ決め手は?:学生さんがやっていることが興味深く、好きなことを通じて子供が成長できると思った。
・参加してみてどう感じたか?:仲良く楽しそうに工作をしている様子を見ることができ、参加できてよかったと思う。こうした講座を通じて、“子供が自信を持つ”様子や“やる気が出ている”様子、自分から何かをやってみたいという“自主性”が出てきているのを実感している。今回の講座でもイキイキしている子供の様子を見ることができて嬉しい。
会場のあちこちで1つ1つの作業が終わるたびにその様子をスマホやビデオカメラで記録するご両親の様子からも、サポーターの学生さんと一緒に作業をしているシーンを記念撮影する様子からもご両親の満足度が垣間見られた。
つきっきりで手厚いサポート
講座では子供たちが1つのテーブルに2人に座り、その前に立ち膝の学生が専任で1人ついて、常に3人チームで行動する。「トイレ!」と声を上げる子供たちにはトイレに連れて行ってくれるなど、外野席の両親は文字通り“外野”状態である。ここまで手厚いサポートをやってくれるとは、驚きである。
本講座の参加対象は小学生1年生から6年生までの子供たちだが、見た感じだと1年生から3年生が中心のようであった。それを18歳・19歳の学生がつきっきりで面倒を見てくれている…そんな印象だ。そんな優しくて頼もしいお兄さんとお姉さんに甘えている様子もあちこちで見られてほほえましい光景だった。もっぱら、お兄さんとお姉さんは事故やけが無いように「席から離れないでね」「もう少し待っていてね」と、気配りが大変だ。
精鋭メンバーの緊急オペも
作ったものを動かしてみようと席を移して、仕上げの作業を行う子供たちと一緒に、クライマックスを前にして、外野席に座っていたご両親が一気に動き出すのだ。…となると、そこは撮影会場に代わる。出来上がったロープウェイを、今日のために学生が手作りした台に設置して、グループごとに順番に試走させるのだ。
しかし、手厚いサポートのもとにつくったものでも、動作がおかしかったりうまく走行できないものがでてくる。そんな時は“処置室”にいる“ドクター”のところに持ってくれればすべて解決するのだ。運営メンバーの精鋭たちが2人、3人がかりで緊急オペを行う。講座の時間内にぜったいに作ったものを完成させるという強い志で、子供の笑顔のために調整や修理を行う。治療が終わった“マイゴンドラ”をもって“ドクター”へ「ありがとう」とお礼を言って試走場へと向かっていくのである。
〔今日の名言〕司会を務める学生が言ったヒントを伝えるときの言葉
“ヒミツのワザを教えてあげよう”
〔受講生の今日イチ〕鳥取から飛行機に乗って受講に来たという親子
〔大学のココイチ〕充実した設備と自立した学生の運営力は準備から後片付けまで含めて、“プロの仕事”といっても大袈裟ではない手際の良さでした。
取材講座データ:からくり部員のロボット(教室芝浦工業大学公開講座)
文・写真/まなナビ編集室