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対ノロウイルス 4つの感染ルート遮断、4つの対策徹底

冬の体調不良といえばノロウイルス。あのひどい嘔吐と下痢は二度と体験したくない、と誰もが思うはずだ。とくに乳幼児のいる家庭では家族に感染が拡大することも多く、しっかりとした防御の知識が必要だ。東京医科大学の公開講座「子どもの下痢と血便」で、同大主任教授で小児科科長でもある河島尚志教授にその対処を学ぶ。

潜伏期間は1~2日。感染しても症状が軽い人も

冬季下痢症」という言葉もあるくらい、子どもは冬にお腹を壊す。その原因は主にロタウイルスとノロウイルス

ロタウイルスについては前の記事「赤ちゃんの下痢が白い!ロタウイルス感染かも」で解説したとおり、水溶性の白色の下痢が特徴だが、ノロウイルスは下痢に先行して嘔吐が出ることが多いという。

「ノロウイルスは、あのひどい嘔吐や下痢の症状からはちょっと想像ができませんが、意外に感染しても下痢をしない人も多いのです。ちょっと便が柔らかいな、どうしたんだろう……と思っているうちに治ってしまう人も結構います。

ロタウイルス(主にかかるのは乳幼児)の重症度が10としたら、ノロウイルスは1くらいです。発症しても2日で治る人が大半です」

ノロウイルスの潜伏期間は1~2日。発症しても多くが2日で治るので、感染後4、5日で収まると考えればよい。

しかし、ノロウイルスの怖いところは、集団感染や家庭内感染で、次々と感染が広がってしまうことだ。

ノロウイルスは集団感染、家庭内感染が怖い

河島先生は、実際に保育園であった集団感染の事例を紹介した。

「保育園で、赤ちゃんが吐いた吐物を雑巾できれいに拭いて、その雑巾を洗って干しておいたんですね。そうしたら雑巾をかけておいただけで、そこからウイルスが空気中に出てしまい、その保育園では園児のほとんどが感染しました。

ノロウイルスは非常に小さく、乾燥した状態で2か月生きたという実験もあるくらい乾燥に強く、また、わずかな量で感染するほど強い感染力を持っています。菌数が10個とかで感染するので、まな板に少量ついてしまっただけで感染してしまうんですね。

乾燥すると細かな塵となって舞うので、感染者の吐物や便をどう処理するかが、集団感染や家庭内感染を防ぐポイントとなります」

ノロウイルスの感染ルート4つ

ノロウイルスの感染ルートには主に次の4つがある。

(1)感染した人の便や吐物に触れた手や指を介して感染する。

(2)便や吐物、あるいはそれを拭きとったものが乾燥し、そこからウイルスが細かな塵となって空気中に舞い、それを体内に取り込んで感染する。

(3)感染した人が十分に手を洗わないで調理を行い、食べた人が感染する。

(4)ノロウイルスを持っている二枚貝、とくにカキ(牡蠣)を十分に火を通さずに食べることで感染する。

「ノロウイルスは今や日本中の下水道の中に一年中います。下水処理場の処理をすり抜けたウイルスが川や海に流れ、そのウイルスを水と共にプランクトンや小魚、とくにカキなどの二枚貝が取り込みます。

そしてその体内で濃縮され、そのカキを食べた人間が感染し、それを便や吐物で排泄し、それが下水道に流れてまた川や海に流れる……このように、ノロウイルスは私たちの生活サイクルの中に入り込んでしまっています」

ノロウイルス感染を防ぐ4つの対策

ノロウイルスに感染しないためには、以下のことを心掛けたい。

(1)接触感染を防ぐために、流水で石鹸を用いて丁寧に手洗いをし、物理的にウイルスを取り除く。

(2)まな板や布巾などの調理器具は、煮沸消毒か、次亜塩素酸ナトリウムを含む塩素系漂白剤で消毒。

(3)カキなどの二枚貝を生あるいは火の通りが不十分な状態で食べない。厚生労働省「ノロウイルスに関するQ&A」によれば、カキなどの二枚貝は中心部が85℃~90℃で90秒以上の加熱が望ましいとしている。

(4)ノロウイルス感染者の吐物や便などからの二次感染を防ぐために、それらを徹底的に消毒する。これについては次項で詳しく解説。

ノロウイルスにアルコールが効かない理由

なお、注意しておきたいのは、アルコールや石鹸は、インフルエンザウイルスには効果があるが、ノロウイルスやロタウイルスには効果がないということだ。

インフルエンザウイルスにはエンベロープと呼ばれる細胞の膜のようなものがある。エンベロープは脂質でできているため、アルコールや石鹸など脂質を溶かす作用があるものを使えば、破壊することができる。しかし、ノロウイルスやロタウイルスはエンベロープを持たないため、アルコールや石鹸を使っても破壊することができない。

そのため煮沸消毒をしたり、強力な殺菌作用をもつ次亜塩素酸ナトリウムを使って除去したりするしかない。石鹸はノロウイルスを破壊する効果はないが、手指にこびりついた垢をきれいに取り除くことで、ノロウイルスも一緒に除去することができる。

次亜塩素酸ナトリウムは、家庭用の塩素系漂白剤の成分なので、これを指定の濃度に希釈して使う。なお、酸素系漂白剤ではこの効果はないので注意が必要だ。

家庭内感染を防ぐため吐物やおむつはきっちり処理

最も困るのが、床に吐いた吐物やおむつなどをどう処理するか、だろう。これについては厚生労働省「ノロウイルスに関するQ&A」に詳しい処理方法が掲載されている。以下に簡略にまとめると──

(1)使い捨てのガウンかエプロン、マスクと手袋を着用し、ウイルスが飛び散らないように吐物や便をペーパータオル等で静かに拭き取る。

(2)拭き取った後は、次亜塩素酸ナトリウム(塩素濃度約200ppm)で浸すように床を拭き取り、その後水拭きをする。

(3)拭き取りに使ったペーパータオルやおむつ等は、ビニール袋に入れて密閉して廃棄する。この時、ビニール袋内に廃棄物が充分に浸る量の次亜塩素酸ナトリウム(塩素濃度約1,000ppm)を入れると、なお望ましい。

(4)処理した後はウイルスが屋外に出て行くよう空気の流れに注意しながら十分に喚気を行う。

塩素濃度約200ppmの溶液をどのようにして作るかは、キッチンハイターなどの商品のホームページに記されている。たとえばキッチンハイターの場合、水5リットルに50ml(キャップ2杯)で200ppm以上、水1リットルに50ml(キャップ2杯)で1,000ppm以上とある。そうしたメーカーのサイトを参考にすればよい。

なお、塩素系の漂白剤や洗浄剤に酸性タイプの洗浄剤等が混ざると、有毒な塩素ガスが発生する場合があるので、使用時にはくれぐれも換気に注意したい。また、漂白剤が目や皮膚、衣服や金属類(塩素で腐食する)などにかからないよう気をつけたい。

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河島尚志(かわしま・ひさし)
東京医科大学小児科学分野主任教授、東京医科大学病院副院長、小児科診療科長
1985年東京医科大学大学院修了、同大学病院小児科臨床研究医、大月市立中央病院部長などを経て、現在は東京医科大学病院にて小児科診療科長を務める。専門は感染免疫、膠原病、栄養消化器肝臓疾患、川崎病など。

◆取材講座:「子どもの下痢と血便」(東京医科大学病院 )

文/まなナビ編集室 医療・健康問題取材チーム 写真/東京医科大学病院提供