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安倍政権「GDP600兆円」政策を阻む3つの壁は

「経済の理論を初歩から身につけよう─アベノミクスの目的:GDP=600兆円は可能か」講義風景

第3次安倍第3次改造内閣が発足した。「アベノミクス新3本の矢」の第1の具体的目標は、2020年頃に名目GDP(国内総生産)を600兆円にすることだった。現状から見てそれは可能なのだろうか。龍谷大学名誉教授の岡地勝二先生はその達成の難しさを、やさしい経済用語で解説した。

公約達成どころか財政破綻の危機?

安倍政権が「新3本の矢」政策を本格始動した2016年時点の日本のGDPは約540兆円。 4年後の2020年に600兆円へ引き上げるために、政府はインフレ率を2%、経済成長率を3%に上昇させ、2019年には消費税を10%に引き上げるシナリオを描いていた。

しかし岡地先生は、下記の3つの問題を解決しないかぎり、公約の達成は難しいという。

(1)円高基調の定着
日本のGDPを再度拡大するためには輸出額を増やすことが必須。 しかし、円高基調では輸出額の大幅アップは望めない。

(2)賃金格差の拡大
日本の非正規雇用者の割合は全体の40%近く。正規雇用者との賃金格差が広がっている。つまり、賃金が低いとものを買えないことから、購買力低下の一因になっている。

(3)労働者人口の減少
昔は日本と中国の賃金の比率は30:1だったため、中国から労働者が来たが、今は日本企業が中国に自社工場を作るのが一般的になった。労働者人口もそうだが、国内の働き口も減少傾向にある。

以上は、龍谷大学エクステンションセンターの公開講座「経済の理論を初歩から身につけよう─アベノミクスの目的:GDP=600兆円は可能か」の中でポイントとなった話だ。本講座では経済の知識をまったく持たない人でも経済がわかるようになるよう、やさしい言葉とわかりやすい説明で経済の基本を説明していく。

経済成長率3%が実現できれば604兆円になるが

アベノミクスの目指す「2020年頃に名目GDP(国内総生産)を600兆円」を数字から見てみよう、と岡地先生は説明を始めた。

まずGDPとは何かを理解しておく必要がある。GDPとは、日本人であれ、外国人であれ、日本国内で人々が生み出した金額の総計である。ただし、GDPには名目GDPと実質GDPの2つの算出方法があり、アベノミクスの600兆円公約は名目GDPのことを指す。名目GDPとは実質GDPに物価変動を反映したものだ。

仮に経済成長率3%が実現できると、約540兆円×0.03=約16兆円。 GDPが毎年約16兆円増え続けると2020年には約607兆円になる試算だ。

しかし、現在のインフレ率は約1%経済成長率は約1.2%。シナリオ通りの成果は出ておらず、公約に黄色信号が灯っている。

綾小路きみまろ調のジョークで

日本政府が国債(国が発行する債券=借金)を湯水のように発行した結果、日本の国家財政約97兆円のうち新規国債は約34兆円にのぼる。つまり、国家財政の30%以上が借金でまかなわれているわけだ。よく報道される、ギリシャの二の舞になるのではという懸念は、ここから生まれている。ギリシャは国債を持ちすぎて財政破綻した。

「経済の基本は供給と需要が一致すること。供給とはモノを作ること。需要とはモノを買うこと。これが一致することは作ったものが売れるということ。モノを作りすぎると在庫が増えて価格が下がる。価格が下がるとデフレの状態(物価が下がる)になる。逆に、どんどん人がモノを買い、品不足になると奪い合いが起きる。奪い合いが起こると価格が上がってインフレの状態(物価が上がる)になります」(岡地先生。以下( )内同)

平日の朝の講義とあって、教室には定年を迎えたシニア層の姿が目立った。仕事で経済を専門にしていた紳士や国際経済や政治に興味があるご婦人など、その顔ぶれはさまざまだ。

「今は国内の需要が伸びない。皆さんも年金生活でお金を使わないでしょ? せいぜいここへきて講義を受けることぐらい。学長になりかわって御礼申し上げます」と、綾小路きみまろを彷彿させる小気味の良いジョークに教室はどっと沸く。

「皆さんも僕も2020年にはあの世で講義をやっているから心配はいらない(笑)というのは冗談としても、日本経済がここまで衰退しているのは、国が職業訓練にお金を使わないからです。そうしたら少なくとも、上の3つの問題の(2)の非正規雇用の問題と、(3)の労働者と働き口の減少の問題は改善するでしょう? 国民をほったらかしにしてきた経済政策のツケがいま回ってきているということです」

岡地先生は講義にオチをつけたが、経済政策にはオチがないようにしてもらいたい。

 

取材講座:「経済の理論を初歩から身につけよう─アベノミクスの目的:GDP=600兆円は可能か」(RECコミュニティカレッジ 龍谷エクステンションセンター梅田キャンパス)

文・写真/福山嵩朗