まなナビ

学ぶこと、仕事をすることの楽しさ〈金賞受賞作文〉

もし何でもできる才能があり、余りある財力があり、不可能なことが何一つない人生だったら……つまらないと思います。そして学びとは、自分がまだまだ未完成な存在なのだということに気づくために行うものだとも思います。難しいから楽しいし、苦しみの中に喜びがある。おりたさんのチャレンジに多くの人が励まされるはずです。

「自力で歩いてみたい」の思いから

 昨年、外の世界を見たくて工業高校卒業後、46年間勤めた会社を中途退職した。上司、同僚から慰留もあったが、会社によって敷かれたレールを離れ自力で歩いてみたかった。そして、出来れば会社で決まった序列を、世間の評価で変えたいと思った。

 今から思うと自信過剰だったかもしれない。前職で社内Web(イントラネット)の企画、立ち上げ、運用を行い社外から高い評価を受け、この関連で“ネットビジネス”に挑戦したいと漠然と思っていた。中途退職で自分を死地に追い込むことによって覚悟を示し、火事場の馬鹿力に期待した。

 まず技術を磨くため、ハローワークの紹介で、無料の講習を受講することにした。3回不合格になり、諦めかけた4回目の受験で合格し、“実践Web作成と運用”という5カ月のコースを受講出来た。

新しい環境で「Web」と「人生」の学び直し

 そして私の学び直しが始まった。20~30歳代の若者に交じって、手のこむら返りに耐えながらホームページの作成、イラストレーター、フォトショップ等の最新技術を、日曜日を除きパソコンに一日、13時間以上向かい必死に学んだ。講師の指導が良く、技術は格段に向上し、見栄えのするホームページ作成、ポスターデザイン、写真とデザインの融合等も出来るようになった。

 しかし、高齢と美的センスに劣るとの企業の厳しい評価で、再就職は難しかった。『俺は腐ったリンゴか』との思いを持った。仕方なくネット経由で仕事を始めたが、徹夜で頑張っても月2万円稼ぐのがやっとで気力を失い挫折、2カ月間ゴロゴロと過ごした。妻と一日中顔を突き合わせていると息が詰まりそうで、邪魔者扱いされ妻の表情も暗くなった。

 マイペースで生活していると体力が落ち、6カ月前に自転車で登れた坂が登れなくなり体力の衰えを自覚した。この出来事が私の背中を押しシルバー人材センターに登録した。

 直ぐに再就職が決まった。管理職だった私が、今は自分の身体と手を動かして仕事をしている。相手は親切な客、高圧的な客、不機嫌な客と様々。自分を鏡で見ているようで勉強になる。

 自分が思っている半分も仕事が出来ないし、処理能力も低く入力の桁間違い、FAXの誤送信など、自分でも想像出来ない失敗をする。自分が情けなくて何回か涙も流した。失敗を取り戻すために創意工夫もするが、また失敗する。前職の私なら、失敗した部下に理由を十分に聞かずに怒鳴り散らしていた。まさにパワハラそのものだった。ここでも私の人生の学び直しが始まった。

周りの優しさに自分が変わった

 今の職場は間違った時にも年下の先輩が優しく指導してくれる。そして、私も素直に聞くことが出来るようになった。これがもう少し早く出来ていたらと思うが後の祭りだ。この優しさがあれば、違った人生があった。

 そして、就職1カ月でようやく、「ありがとうございます。行ってらっしゃい」とお客様に声が出るようになった。まだ機械的に声を出していて心の底から出ていない。伝票と売上が合っているか、手作業で確認する。数万の売上でも合えば嬉しく満足感がある。

 さまざまな失敗と経験を重ねながら成長しているのが自覚できる。それでも、“ネットビジネス”をするとの初心は忘れておらず、独学でデザインを学び再起を期したいと思っている。今回の学び直しと再就職を“ネットビジネス”に活かしたい。

 このように紆余曲折があったが、学ぶことと働くことの難しさと楽しさを知った1年だった。

 

おりた はじめさん(67歳)/兵庫県/最近ハマっていること:文筆活動で小説を書く

 

イメージ写真/(c)DigitalGenetics / fotolia

(編集室がタイトルや文字の修正などをしています)

 

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