ひとり息子の成人式にスーツを
生地選びから型紙起こし、ソーイングなど、すべて手作業で最上級の技術を学ぶ、文化服装学院の「高級メンズ テーラー技術」講座。機械による大量生産が主流の現代、アパレル製造のプロにとっても、かなり難易度が高い内容だ。
受講生は30~40代の男女十数人。スキルアップを目指すアパレル関係者ばかりと思いきや、服の製造とは無関係で、友人のウエディングドレスをつくるためなど、モノづくりが大好きという受講生が多い。
主婦の鈴木さん(40代)は、ひとり息子の成人式に手づくりのスーツをプレゼントするのが目的という2年目のリピーター。
「前回、今回とも、夫のスーツをつくって予習中。ダメなところを夫用で克服してから(笑)、3年後の成人式に向けて息子のスーツを完成させます。実ははじめ、別のテーラー講座に通うつもりだったんです。でも、受講料は高いし自分の目的とは合わないような……。その講座の受付の方に相談したら、こっそりこちらの講座を教えてくれて。彼女もここの受講生だったんです。
高級テーラーの技は実生活にも役立つんですよ。去年、息子が太って制服のズボンが入らなくなったんですけど、ここで教えいただいた技で私にもできるかもと、ズボンをバラしてサイズ調整。見事成功して制服を買い替える1万円強が浮きました!」
金融関係の団体職員(超エリート!)の近藤さん(36才)は、経験ゼロだったのだが、この講座に通いたいと一念発起。いくつかの基礎講座に3年通ってパターンや裁縫を学び、やっと本講座に通いはじめて3年目という変わり種だ。
職業にするつもりはないのに、なぜそこまでしてなぜテーラー技術を?
「仕事では、とんでもない規模のお金やモノを動かしているけれど、実感がなくて。この講座で学べるのはモノづくりの究極。仕事じゃないし、趣味でもない。ライフワークです」
サラリーマンを辞めて30代半ばから修行を
10代で修行を始めるのが当たり前というテーラーの世界に、30代半ばで飛び込もうという人もある。講師代表の白瀬先生が、「生まれながらのテーラーの手を持っている」と評した川崎さん(38才)は、発電の設計業を35歳で退職し、高級テーラーに転職することを決意してこの講座に通うこと3年目。
「仕立てのいいスーツを着ると、芯が通って守られている感じがして、自信が持てるんです。サラリーマンを10年勤めて、向いてないなと思ったときに、コレだ!と思って」
一からテーラーの技術を学び、この講座に通い始めたのをきっかけに宮坂信弘先生に弟子入り。恵まれた環境を捨て、はたから見ると無謀ともいえる決断だが、針を持つ川崎さんは少年のようにイキイキして、いかにも楽しそう。
ハードルが高いからこそ、達成感も並みじゃない。人生を変えたり、人生そのものだったり。オープンカレッジには、こんな講座もある。
◆取材講座:「高級メンズ テーラー技術」(文化服装学院オープンカレッジ)
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文・写真/まなナビ編集室