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外国人が日本語講座で納得する便利であいまいな語尾

増田裕子先生

昨年、日本を訪れた外国人は過去最高の2400万人を突破した。それとともに日本に住む外国人も増えている。そうした在留外国人向けに開催されているのが、上智大学の外国人向け日本語講座だ。指導するのは実際上智大学で日本語を教えている講師陣。本来は日本人の参加NGのこの講座を、特別に聴講させてもらった。それは、日本人である我々が無意識に使っている日本語の難しさ、そして面白さを意識させられる、貴重な体験でもあった。

日本人の講座にはない空気

この講座は外国人向けなので、講座名も英語で「Essential grammar for meaningful communication in Japanese/Japanese Basic」。本日の講師は増田裕子先生(上智大学非常勤講師)。受講生の日本語レベルによってクラスが分かれている。

本日の受講生は、日本に留学中あるいは就労中の、アメリカ、イギリス、ペルーなど、様々な国の人々。20代から50代くらいで、皆さんかんたんな日本語はしゃべれるが、文法などはまだまだ、といった方たちである。

教室に一歩足を踏み入れると、受講生たちから「Hello!」「How are you?」の明るい声が届く。日本人の講座にはなかなかない、賑やかでアットホームな空気が教室を包んでいる。これぞ外国人向け講座、と思いながら席に着く。講師の先生を囲むようにして机が並べられているのも、受講生同士が会話をしやすい雰囲気を作り上げている。

この日は、年明け最初のレッスン。講師の増田先生から、「お正月はどうすごしましたか?」と質問が飛ぶ。授業は英語と日本語を適宜使い分けながら行っている。

過去形の例文をつくりましょう

「温泉に行きました」
「家でたくさん寝ました」
「友だちとカウントダウンをしました」
「浅草に初詣に行きました」
「イギリスに帰って友達とパブでお酒を飲みました」

などの回答が続く。さて、これは単なる雑談ではなく、これらの回答を使って本日のレッスンが始まっていく。

この日の参加者は、アメリカ、イギリス、ペルーなど様々な国から来た方たち。日本滞在年数も数ヶ月から数年までさまざまだ

「~したり」は結構むずかしい

「では、これらの行動を〈~したり〉でつないでみましょう」と先生。前記3つの行動をつなぎあわせると、

「温泉に行ったり、家でたくさん寝たり、友だちとカウントダウンをしたりしました」

となる。ここポイントとなるのは、「たり」でつなぐには、それぞれの動詞の形を変えていかなければならない点。受講生は、動詞によって変化の形に違いがあることを学んでいく。英語だって、「-ed」を付ければいいってものではなかったように、日本語も、なかなか複雑なのである。先生お手製のカードを使って、二人一組で声を出して確認しあう。

 よむ→よんだ
 あそぶ→あそんだ
 べんきょうする→べんきょうした
 とる→とった
 まつ→まった
 つくる→つくった
 いく→いった
 いそぐ→いそいだ

日本語の動詞変化にもいろいろあるんだと気づく。

「たり」は便利な日本語!?

次に、動詞を使った応用を学んでいく。例えば以下である。

「V(動詞)たり、Vたり、Vたり したいです/したくないです」
「Vすぎます/すぎました」

「~したい」を学ぶに当たり、先生から「今年のレゾリューション(決意)は何ですか」という質問が投げかけられる。

「貯金をしたり、日本語を勉強したりしたいです」
「煙草をやめたいです」

などの回答が続く。勉強熱心な受講生たち!

外国人が覚えておくと便利な表現とは?

「たり」と同じく、「~すぎる」を付ける場合も、動詞によって変化の形は異なってくる。外国人にとって、この変化の法則を覚えるのは容易ではないようだ。

 たべる→たべすぎる
 つかう→つかいすぎる
 べんきょうする→べんきょうしすぎる
 小さい→小さすぎる
 高い→高すぎる

さまざまな言葉に「すぎる」を付ける練習が続く。先生の質問と、受講生の回答が続く。質問に答えられない受講生には、他の受講生が助け舟を出す。語学の習得には「声に出す」ことが大事なのだと実感する。

「~すぎます」のレッスンから、ショッピングのシチュエーションの練習に移る。「性能がよく動きが速いけど高いパソコンと、反対に、性能が悪く動きは遅いけれど安いパソコン、あなたならどちらのパソコンを買いますか?」という先生の質問に対して、二人一組で自分の意見を言いあう。ここでは「~すぎる」とともに、「~が」という逆接表現を学ぶことにもなる。

「このパソコンは、安いですが、遅すぎます」

ショッピングの会話の中で、ある受講生が「ちょっと伺いたいです!」と、隣りの受講生に質問を投げかけた。それを受けて先生から、ショッピングにおける質問の仕方について、アドバイスがあった。

空気を読む日本人ならでは

日本では、「伺いたいです」と言い切るよりも、「伺いたいんですが……」と、断定しないほうがよいのだと、先生は言う。

例えば、電話でお店の予約をするとき、日本人は「予約をしたいです」ではなく、「予約をしたいんですが……」と、あるいは職場で体調が悪く、今日は仕事を切り上げて早く帰りたいなというとき、上司には「今日、少し早く帰ります」ではなく、「今日、少し早く帰りたいんですが……」と言う。これらは自分の意見を主張するだけではなく、相手の反応を見つつ、相手の同意ないし反応を求める振る舞いであることが説明される。

つまり、円滑なコミュニケーションを図る時には断定しない言い方を使うとよいのだと。なーるほど。もし外国人の友だちができたら教えてあげよう。

“空気を読む”日本人ならではの言葉なのかもしれない。そして、外国人の受講生が意外にこの日本人的ニュアンスを受け入れて理解していることが結構大きな驚きだった。

〔受講生の今日イチ〕日本語の難しさを訊ねると、みな一様に、「漢字」!

〔大学のココイチ〕都会のど真ん中で仕事帰りにもアクセス便利。大学が提供する講座なので学位をもった経験豊かな講師!受講生同士の交流や情報交換の場にもなっている。

〔おすすめ講座〕Essential grammar for meaningful communication in Japanese 初級
(集中講座)Beginners’ Japanese:Learn to communicate in 8 weeks 入門

取材講座データ
日本語:Essential grammar for meaningful communication in Japanese 初級 上智大学公開講座 2016年秋期講座

2017年1月13日取材

文/まなナビ編集室 写真/上智大学提供、まなナビ編集部