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土木女子にも大好評、土木の現場を訪ねる大学講座がある

地下40メートルへと降りていく

橋、トンネル、上下水道……。身近なのに知られていない土木の世界。「見てみたい、行ってみたい」と思っても叶わぬ土木の世界。そこに行ける講座がある!それが芝浦工業大学の大人気講座「体感!土木の現場最前線!!」だ。2018年春は、2020年に向けて整備が行われている東京臨海部の新たなアクセストンネルに潜入予定だそう(実施は5月19日、申し込みは4月26日まで)。過去の講座(2016年実施)の模様を、講師を務める伊代田岳史(いよだたけし)先生(同大工学部教授)に聞いた。

地中深くに横たわる巨大なトンネル――雨水管渠の見学へ

まず地下40mまでエレベーターで下りて、その後はトロッコで現場に向かいました。ふだん見ることのできない世界ですから、それだけでもみなさん驚いたと思います。ただ、この現場がどれほど“スゴイ”のか。すべてを伝えきれないのが歯がゆかいところでしょうか」(伊代田岳史先生、以下「」内同)

オフィスビルやマンションが建ち並ぶ東京都江東区の埋め立て地の豊洲。近未来的な整然とした街並みが続くが、その一角にあるのが芝浦工大の豊洲キャンパスだ。

ここで土木を教えるのが工学部土木工学科教授の伊代田岳史先生。「体感!土木の現場最前線!!」は伊代田先生が始めた講座だ。

伊代田岳史先生

土木講座の当日。午前中は、豊洲キャンパスの教室で、30人の受講者を相手に、治水、道路、鉄道など、街づくりに土木がいかに役立ってきたかを説明。その後、午後には都内を走る川のすぐそば、地下約40メートルに作られた雨水管渠(かんきょ)の工事現場に向かった。通常ではもちろん絶対見られないところだ。

現地についた受講者たちは、40m――ビル10階ほどの縦穴をエレベーターで下りた。そこに現れたのが、水平に走る巨大なトンネルだ。直径5mほどの見上げるほどの大きなトンネルの入り口にはトロッコが用意され、それに乗りこむと、全長約3キロにもわたる長いトンネルの中に入り込んでいった。

鉄骨で組み立てられたトロッコからは、トンネルの様子が良くわかる。しばらくドーム状のコンクリートの単調な風景が続いたが、10分ほど走ったところで降りると、そこから先は、壁から天井までギッシリと銀色の断熱材で覆われていた。受講者たちは巨大な構造物に目を見張った。

トンネル内の一面が断熱材で覆われていた

夏なのに凍えるほどの「寒さ」でわかる「凍結工法」の高い技術

「真夏でしたが、周りには凍結管が張り巡らされているためとても寒い。みなさん現場の方に上着を借りて見学を続けました」

東西に延びる巨大なトンネルを西側からトロッコで走り、到着したのが中央からやや東側のところだ。そこでは南側から延びる別のトンネルをつなぐ工事が進められていた。ただの工事ではない。トンネルの周辺の土と地下水を凍らせて固める「凍結工法」と呼ばれる工事だった。

別のトンネルをつなぐためには、すでにできあがったトンネルの横に穴を開ける必要がある。だが、通常の工法では土砂が崩れたり、地下水が入り込んでくる恐れがある。そこで周りを凍らせ、固まった土を掘る。

だが、簡単ではない。凍らせた土とトンネルの間に隙間が空けば、そこから凍っていない地下水がトンネルに入りかねない。

凍結中は土や地下水の様子が良くわかるようにたくさんの測定器を配置して、異常が起きないかを常に見守る。かつ、万一、土砂や地下水が浸入してきた場合のために、それらを排出する手段を万全にしておく。緻密で高い技術が求められる工法だ。

もっとも受講者の目の前にあるのは、断熱材で覆われた大きなトンネルの姿だけだ。見ただけではなかなか実感してもらえないのが、伊代田先生をはじめ、現場で働く土木の専門家にとって歯がゆいところだ。世界的にも日本の「凍結工法」は一流だが、見学で実感できるのは唯一「寒さ」だけだ。

もうひとつ、この雨水管渠の役割もわかりにくい。「実際にゲリラ豪雨などがあって川が増水すれば、ここに水が流れ込んで洪水を防ぎます。しかし、実際にそうなっても、恩恵を受ける人たちにこの存在をどれほど理解してもらえているのか」

洪水が起きてしまえば、雨水管渠の必要性はいやでも良くわかる。だが、そうならないための工事だ。雨水管渠は、まさに地中深くで「縁の下の力持ち」になっている “土木”そのものの姿と言えるだろう。見えないところ、わかりにくいところで人々の生活を守る、この講座はまさにそんな土木の実態に触れられるといえるかもしれない。

「体感!土木の現場最前線!!」は大人気講座なので、お申し込みはお早めに(申し込みは4月26日まで。詳しくはコチラから)

文/本山文明  写真/芝浦工業大学(土木講座写真)、本山文明