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前向きだと苦痛に。マインドフルネス(諦め)のススメ

職場のメンタルヘルス・マネジメントを考える、神奈川大学公開講座「大人の人間関係論」。雑誌やテレビなどメディアにも引っ張りだこの人気心理学者、杉山崇神奈川大学人間科学部教授が、大人の複雑な人間関係の悩みをバシバシ解説していく人気講座だ。今回は、「あきらめる」ということの大切さを説く。

「逃げられるなら逃げましょう」

神奈川大学公開講座「大人の人間関係論」は、最初の40分間が受講生から杉山先生への質問タイムである。その中に、「表向きには要求に従っても、自分の意に反しているので疲れてしまいます。これにはどう対処したらいいでしょうか」という質問があった。

うん、あるある。職場でも家庭でも、あるいは友人同士の関係でも、波風立たせたくないからとりあえず表向きは従うけど、心はモヤモヤということがよくある。杉山先生はどうアドバイスするのか。

「自分の意に添わないことに従うのが苦しいのですよね。私のアドバイスは次の一言です。逃げられるなら逃げましょうよ。上手に逃げるのが一番です。逃げられない時はどうするか。私だったら、マインドフルネスを心がけます

マインドフルネスとは、数年前から注目を浴びている言葉だ。いま自分や自分の周りにある現実に集中してあるがままに受け入れることをいう。そこには判断や評価はいれない。あるがままの状態に意識を集中させることで、ストレスが軽減し、パフォーマンスも向上するという。こう書くと何やら能力開発的なものに聞こえるが、杉山先生によれば、マインドフルネスとは一言でいえば「あきらめ」だという。

「逃げられないならあきらめましょう」

なんでこんなことやらなきゃいけないんだと思うと疲れます。なんで私が、なんでこんなことを、などと思うからみじめな気持ちになって、よけいに疲れるんです。ふしぎなもので、愚痴れば愚痴るほど嫌になる。嫌だと思えば思うほど、ますます嫌になる。ではどうするか。諦めるしかないんです。マインドフルネスというのは本当は諦めです。上手に諦める諦めると逆にストレスが減ります

杉山先生は、「あきらめる」ことはけっしてネガティブなことではない、という。なぜなら日本人は歴史的にも上手にあきらめてきた民族だからだ。地震や台風など自然災害の多い日本で暮らしてきた日本人は、自分たちが制御できない、あるがままの自然界に神を見出して、山の神が怒っているとか、海の怒りをかった、などと、災害が起こってもあきらめて受け入れてきた。それが、アメリカナイズされるなかで、「どこまでも前向きであきらめない」ということが評価されるようになってきたという。いまマインドフルネスが世界的に脚光を浴びているのは、そうした風潮に対する反動なのかもしれない。

私たちはあきらめないということに支配されすぎているのかもしれません。あきらめてばかりでは何も変えられないですが、時と場合によってはあきらめるということは、生きるのに大事なことなのだと覚えておいてください

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◆取材講座:「メンタルヘルス・マネジメント講座「大人の人間関係論」vol.3職場の人間関係」(神奈川大学・みなとみらいエクステンションセンター(KUポートスクエア))

文/まなナビ編集室 写真/(c)Antonioguillem / fotolia