そう話すのは武蔵野大学経済学部准教授の渡部博志先生。切っても切れないしあわせとお金の考え方の関係を、公開講座「お金で得られるしあわせ、得られないしあわせ」から武蔵野大学文学部3年生の山口杏菜記者がレポートする。
「これがあればしあわせと思うものを10個書くと……」
講座の初めに渡部先生はこう言った。
「これがあればしあわせと思うものを上から順番に10個書いてください」
そして皆が書き終わると次に、
「その10個について、手放してもいい順に数字を振ってください」
単純に考えれば反比例するはずのものであるのに、多くの人がそうならなかった。そこに「しあわせ」と「お金」の単純にはいかない関係がある。
しあわせは「効用」で決まる
例えば、駅前で売っているコーヒーを、コーヒー好きの人は700円払っても飲みたいと考える。しかし、そこまでコーヒーにこだわらない人は缶コーヒーのように100円払えば飲めるのに、プラス600円払うのは割に合わないと考えるだろう。
これは、個人によってコーヒーの価値が違い、それを得たときの満足度が違うからだ。
このように各消費者が、自己の消費する財から受ける満足の度合いを数量的に表現したものを「効用」という。つまり、効用が高いほどしあわせということである。
そして、コーヒーのようにモノの価値(=効用、満足度)の大小を普遍的に表すツールがお金なのである。
同じモノでも価値は変わる「プロスペクト理論」
ところが損得となると、このモノの価値が少し変わってくるのだ。
アメリカ合衆国の心理学者、行動経済学者で2002年にノーベル経済学賞を受賞したダニエル・カーネマンによると、モノの価値はそれを得たとき(利益になったとき)と失ったとき(損失になったとき)で変わるという。 例えばお金でいえば、50万円得たときの喜びと50万円失ったときのショックでは、ショックの方が大きいという。 このように同じもモノでも得られるときのプラスの価値と失うときのマイナスの価値が同じではない、すなわち価値が変わることを「プロスペクト理論」という。プロスペクトとは「期待、予想、見通し」などの意味だ。
しあわせの価値基準を作れば
ここまで、しあわせとは個人によって効用が違う、そして単純にこの価値はこれと決められない、ということをお金の面から見てきた。
では、しあわせとは何かを決めるときに大切な事は、いったい何なのだろうか。
それは、自分の中にしあわせの価値基準を作ることである。
私たち(特に日本人)は「平均思考」になりがちではないかと渡部先生は指摘する。平均貯蓄額はこれくらいと言われれば、それより多いか少ないかで安心したり焦ったりする。
冒頭の問い「これがあればしあわせというものを上から順番に10個書いてください」と「その10個について、手放してもいい順に数字を振ってください」が一致しないのは、どこかで「これはお金で買える、買えない」という風にモノの価値をお金で決めていたからだ。
実際に、お金で買えない「愛情」「健康」などは最後の方まで手放せない人が多かった。実際にワークでやってみると、お金の考え方としあわせは切っても切り離せないのだとわかるのである。
◆取材講座:「お金で得られるしあわせ、得られないしあわせ」(武蔵野大学公開講座・三鷹サテライト教室)
取材・文・写真/山口杏菜(武蔵野大学文学部3年)
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