今春、おそらく大学初となる産後ケア講座が中央大学で開催される。その指導にあたる野村智子先生に、産後の親と子の在り方やヘルスケアプログラムの内容について、話を聞いた。
「産後、からだは楽になりましたか?」58%が NO
この産後ケア教室では、心とからだの健康を週に1度、1か月かけて取り戻すエクササイズやワークなどが実践される。母となった女性が、心もからだも元気になっていくことを目指した内容だ。バランスボールを使った有酸素運動、参加者同士のコミュニケーションワーク、自宅でできるセルフケア。これら3つのプログラムで産後子育ての導入期という最も不安定な時期を、健やかに過ごせるようサポートしてくれるのである。
マドレボニータが発行する『産後白書~産後女性の身体と心の実態調査~』のアンケート調査で「産後、からだは楽になりましたか?」という問いに、NO58%/YES31%という結果が出ている。悩みは、お腹のたるみ、肩こり、腰痛などと、不安になる、リラックスできない、気分がふさぐ、どうしたらいいか分からない、などのメンタル面が多くを占めている。
回答のとおり、産後の女性は多くの悩みを抱え、心身ともに疲れた状態に陥っている。しかし、残念ながら産後ケアの認知度は低く、まだまだ社会的に普及していないのが現状だ。
どうすれば慣れない育児に追われて疲弊することなく、心身のバランスを取り戻せるのだろう?
野村智子先生は語る。
「産後はまずは、しっかりと身体を休めること、そして産前産後で落ちた体力を取り戻すことが大切です。そのために、産後ケア教室では身体をしっかり動かします。体力や筋力がついて体調を整えることこそが、心の健康につながり、夫や周囲との良好なコミュニケーションにつながり、健やかな子育てにつながります」
母と子がそれぞれの時間を持ち始める時期は
産後ケア教室についてのお話の中で、母子一体から母と子がそれぞれの時間を持ちはじめる節目のことがあった。
「〈マドレボニータの産後ケア教室〉では、生後210日を過ぎたら赤ちゃんは信頼できる方に預けて、ご自身だけで教室に来てください、とお伝えしています。210日というのは、母と子が少しずつそれぞれの時間を持ち始めるのにちょうど良い時期なのです」と先生。赤ちゃんでいう210日は、やっとハイハイやお座りのできる時期である。
その時期に「母と子が少しずつそれぞれの時間を持ち始める」とは、一体どのようなことなのだろうか? 先生の言葉に思わず戸惑ったが、よく話を聞いてみると、そこには親子のよりよい関係を願う先生の思いがあった。
「生後210日というと、赤ちゃんが自分の力で移動できるようになったり、そばにいる人とコミュニケーションをとりたいという欲求がそれまで以上に強くなる時期なので、教室内での赤ちゃん自身の安全を確保するため、という目的がまずあります。
初めて子どもを預けるとなると、不安も葛藤もあると思いますが、子どもを預ける過程で夫をはじめ周囲と“子供を預ける”ということについて相談したり、改めて夫婦で子どもを育てるということについて思いを交わしあったり、自分の気持ちに向き合うきっかけにもなります。また、地域の育児支援サービスや民間のサービスを探したり利用することで、身近に信頼できる子育てのサポーターが増えます。母となった女性が育児を自分だけで抱え込まずに、信頼できる人を見つけて委ねる、という力を身につけていく最初のきっかけにもなってもらえたら嬉しいです。子どもにとっては家族以外の人とコミュニケーションを取り合い、親だけではないほかの人たちとの関係性を作りはじめるとても良い機会となります」と先生。
ちなみに「産後2か月から210日になるまでは、赤ちゃんとぜひ一緒に参加していただきたいです!」とのこと。
確かに記者自身も思い返せば、保育園入所を決断する前に「かわいそう」とか「寂しい思いをさせるのでは?」と、後ろめたい気持ちを抱いていた。登園時に、まるで今生の別れのように泣いてしまうことがあったものだ。しかし、預けた後にそっとのぞくと、ケロリとした顔でお友達と一緒におやつを頬張っている姿を見て、安堵と大きな衝撃を受けた。
子どもは親が心配するほど弱くなく、子どもなりの世界で社会と関わりを持ち、自ら成長をしていく。実際、子どもを預けた親には家庭や仕事、自分の時間など、貴重な世界が待っている。そして何よりも重要なのは、子どもは親が存在しない場で、さまざまなことを覚え、自分の世界を築き、学び成長するということだ。
ひとりの女性としての存在、自立を目標にするところに、このヘルスケアプログラムの魅力がある。クレセントアカデミー事務室の杉本さんも「大学の使命としても、人生プランの中で産後ケアの重要性を発信していきたい」と述べている。
〔講師Profile〕野村智子●NPO 法人マドレボニータ認定 産後セルフケアインストラクター
〔インタビューを終えて〕さぁ!母として、女性として輝く人生のために、産後の重い心とからだを「よいしょ!」と持ち上げて一歩を踏み出してみよう!!
2017年2月15日取材
文/yukako 写真/NPO 法人マドレボニータ、yukako