社会人は一番前の席を陣取る
「いずれ博士課程まで進んで相撲を研究しようと、東北大大学院に行きました。修士課程を終えた後、神道の知識がもっと必要だと思ったんですよ。でも仕事もあるし、大病もした(’08年、心臓弁膜症で手術入院)し、東北大のある仙台に行くのはちょっと難しかった。そんな時、都内には國學院があるじゃないか!と」
そうして、’14年から國學院大学の科目等履修生となった。
科目等履修生とは、その大学の学部生以外で、授業科目ごとに履修(単位取得)できる制度。入学試験も不要で、週に1回、授業の時間に行くというもの。
「席はいつも一番前(笑い)。社会人はみんな本気だから、一番前を陣取っちゃう(笑い)。それでそのおばさん連中でみんな仲良くなるんです(笑い)。群馬から通ってきている人や新潟から新幹線で通っている人もいました。今でも時々集まってご飯を食べたりしています」
内館さんの“ご学友”は幅広い。大学院時代は、イケメン男子学生をはべらせていた。
エッチなテレフォンカードでイケメン男子学生を
「私はパソコンも携帯も持ってないんです。でもいまどきの大学は、履修科目がウェブで出されるんですよね。入学早々、教務課に行って“紙でください”って言ったらびっくりされたくらい(苦笑)。で、その時に、ここでの学生生活は、若い人にいろいろ協力してもらわないとだめだなと思って、男の子ばかり、顔が良くて頭がよさそうな子を数人、仕事の関係でもらっていたエッチなテレフォンカードで釣ったんです(笑い)」
温めると写真の女性の着ている服が消えてヌードになる細工に、男子大学生たちは「うそだろー!」と大興奮。我さきにと教室のストーブにテレフォンカードをかざしては喜んでいた。
「“そのかわりあなたたちは私のために働くのよ”って。たまに学食で“好きなだけ食べなさい”ってごちそうしてたけど、それだって社会人にしたらたかが知れている金額でしたから」
キャンパスライフを十分謳歌してきたように思える内館さんだが、それなりの行きづらさもあったと話す。
「学食のお昼なんて全部18から22までの子が、安い学食をがんがん食べてるわけでしょ。むんむんわんわん雰囲気がすごい。その中にはいるのは、私だって特別楽しいというわけではないですよ。芋煮会も学祭も、我が子のような年齢の学生と楽しむのは無理がある。社会生活でもっと楽しいことを経験してきたわけだから当然ですよね。自分が現役大学生の時のようにはなじめません。
でも、講義は“若い子ばかりで気後れする”という気持ちはゼロでした。それに講義で面白いことに出合えるのですから」
「年を取ることはいまいましい」けれど
年を重ねたゆえのメリットもある、と内館さんは力説する。
「石原慎太郎さんが新作の中で『年を取ることはいまいましい』と書いていらして、ああ本当にうまい表現だと思いました。誰でも年を取れば記憶力も体力も落ちてきますし。でも、この年になったからいいこともあります。
まず、自分が一番行きたかった大学にも簡単に行けますよね。私の友達で憧れていた女子大の講座に通っている人がいるんです。彼女は家の事情で高校だけで社会に出ました。だから、彼女は今キャンパスを歩くだけでうれしいって言っています。
大人が学び直しで大学を選ぶときには、その後の就職先とか結婚の条件とか関係ありませんよね。だから、純粋に学ぶ楽しさを感じられる気がします。何かを始めたいと思ったら、その時が一番若い、と私はドラマのセリフで書いたことがあります。だからこそ始めてみてはどうですか、とみなさんにお伝えしたいと思うんです」
〔前編を読む〕「日常から離れた講座を」
2017年3月13日取材
文/まなナビ編集室 写真/chihiro.