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信じていた妻や子が預金独り占め。修羅場で家庭崩壊も

『行列のできる法律相談所』(日本テレビ系)でおなじみの菊地幸夫弁護士。相続をきっかけに骨肉の争いになるケースは多く、遺言も決して万能ではないという。生前から相続人全員に遺言の内容をオープンにし、誰にとってもブラックボックスを作らないことが信頼関係を作り、争いを避けるカギになる。(前の記事「“行列のできる”菊地弁護士「遺言書は万能ではない」」に続く)

「この前の海外旅行の費用も?」

突然、家庭裁判所から、亡くなったお父さんの自筆証書遺言の「検認手続き」をするから立ち会って欲しいと連絡が来る。

「え、遺言なんてあったの?」

同居していた長男は知っていたようだが、他の兄弟にとっては寝耳に水。しかも遺言の内容は長男にずいぶん有利な内容だ。他の兄弟にとっては驚きに失望が加わり、やがて怒りへと変わっていく……。菊地先生があまりにもよく遭遇するケースだ。

「そういえばこの間、お父さんとお母さん、お兄さん(長男)家族と海外旅行に行ったみたいだけど、その費用って誰が出したんだろう。ひょっとしてお父さん?」

相続とは直接、関係のない話まで想像は膨らみ、不信感は募るばかりだ。父親と同居していなかった兄弟姉妹にとって、父親の経済状態は全くのブラックボックスだ。それが疑心暗鬼につながっていく。

菊地先生は3人の娘にオープンに

防ぐためのカギは2つ。透明性と予告だ。これにも万能の方法はなく、あくまで自分ならばこうするとして菊地先生は次のように語っている。

「私には娘が3人いるんですが、お盆や正月に家族が揃った時に、『そろそろ遺言を作ろうと思うんだけど』と話を向けて、自分が持っている財産を洗いざらいオープンにするんです」

家、土地の権利書、預貯金、すべてコピーして全員に渡す。遺言の案も作って全員に見せる。同意を得て、できれば全員から了承のサインをもらえればベストだ。

もちろん内心「もっと欲しい」と不満を持つ子がいるかもしれない。だが、これから財産を譲ろうとしている当人を前に、無謀な要求はしないはずだ。

父親、母親ならばもちろん、別の立場であったとしても、その人が亡くなった瞬間、まとまっていた家族が音を立てて崩壊していくことはあまりに多い。要(かなめ)となる人が生きているうちに、透明性と予告によって信頼関係を築いておくほうがいい。

完全な解決にはならなくとも、少なくとも深刻な争いは避けられるのではないか。いずれも誠実な対応が基本になる。

よくあるのが、亡くなる直前に家族のひとりが勝手に預金を解約してこっそり独り占めにしてしまうケースだ。

いざ相続を開始していくと、生前聞いていた話と違う。銀行に問い合わせたりして調べていって、「えっ、まさかアイツが勝手に!」となり修羅場となる。

相続は“争続”。性善説は通用しない。最愛の妻だろうが子だろうが、相続人が複数いる場合は、けっして一人だけを信用しないことだ。

菊地幸夫弁護士

事業継承できないケースも

今は相続が難しい時代だ。相続税を払えずに、都心の土地や家を売り払い、郊外へ引っ越さざるをえない人は多い。

事業継承がからめば問題はさらに複雑化する。たとえば家業で何かの生産工場を持っており、その土地・工場・設備までが相続対象となる場合。兄弟の誰かが家業を継ぐには、土地・工場・設備をすべて譲り受ける必要がある。しかし、他の兄弟が権利を主張した場合、時には土地・工場・設備を売り払わなければならなくなる。そうなると家業は途絶えてしまう。

日本ではこのような試練に直面している中小企業が多い。それがあいつぐ中小企業の廃業の理由にもなっているという。

親族間の争いの原因になり、事業継承にも支障を来す。相続を甘くみると、大いに後悔するはめになりかねない。菊地先生は「(相続は)人生最大のピンチになる可能性も」と戒めている。

相続するほうも、されるほうも、一度、具体的に考えてみる必要がありそうだ。

〔身近な法律を学ぶなら〕
弁護士 菊地幸夫の「こんな事件をやってます」
憲法入門 -日常生活の視点から考える-
新聞記事から紐解く民法入門

〔この日の3ポイント〕
・情報のブラックボックスが疑心暗鬼を生む
・生前から相続人全員にオープンな情報を
・事業継承にも難しい相続、関係者どうしの話し合いで信頼を

 

講師Profile●菊地幸夫
きくち ゆきお。中央大学法学部卒業。元司法研修所刑事弁護教官。現在、社会福祉法人練馬区社会福祉事業団理事も務める。日本テレビ「行列のできる法律相談所」及び「スッキリ!! 」をはじめ、数本の番組にレギュラーとして出演。弁護士業務の傍ら体力作りにも勤しみ、各地のトライアスロン大会へも出場。地元小学生のバレーボールチームの監督等も務めている。

取材講座:弁護士菊地幸夫の「こんな事件をやってます」(中央大学 オープンカレッジ:クレセント・アカデミー・駿河台記念館)

文・写真/本山文明

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