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仏像界一の腹筋を持つ金剛力士像。ヘラクレスとどう違う?

左がヘラクレス像、右が東大寺南大門金剛力士立像(『週刊ニッポンの国宝100』第2号より)

腹筋が割れてなければ男にあらず、と言わんばかりの腹筋ブーム。じつは誰でも腹筋は割れていて、脂肪が上に覆いかぶさって見えなくなっているだけらしいのだが、表にみえなきゃ話にならないということらしい。では日本一の腹筋仏像はというと、これが東大寺南大門の金剛力士立像なのだ。

高さ8メートル超え、重量6トン超え

9月26日火曜日から、東京国立博物館(東京・上野)で、史上最大規模の運慶展「興福寺中金堂再建記念特別展 運慶」が始まる。運慶は平安時代から鎌倉時代にかけての動乱の時代に、奈良や京都で活躍し、数多くの仏像を遺した仏師だ。生涯に制作したといわれる仏像は31体。そのうち22体が結集する、まさに史上最大の運慶展といってもよい規模となる。

しかし、運慶の作品で、最も知られている奈良・東大寺南大門の金剛力士立像は出展されない。大きすぎるからだ。南大門に向かって左側に立つのが阿形(あぎょう)、右側に立つのが吽形(うんぎょう)だが、ともに高さは8メートルを超え、重量は阿形約6.7トン、吽形約6.9トン。さすが日本一巨大な大仏殿の表門に立つ、日本最大の木彫像である。

さすがにこれは動かせない。奈良に行って仰ぎ見るしかないのだ。

金剛力士立像の腹筋を見よ

国宝の金剛力士立像は、この東大寺南大門の1組、東大寺法華堂の1組、興福寺国宝館にある1組、この3組のみだ。南大門と興福寺の金剛力士立像は上半身裸だが、法華堂の金剛力士立像は鎧をつけている。この筋肉のつき方が比べて見ると面白い。

東大寺南大門の金剛力士立像は筋肉もりもり腹筋割れ割れで俗にいうバルキーな体型だ。かたや興福寺の金剛力士立像は暗黒舞踏を思わせるダンサー体型。『週刊ニッポンの国宝100』2号「東大寺金剛力士立像・松林図屏風」では、これら3組が一堂に見られる。

しかし今回、瞠目したのが、ヘラクレスと金剛力士立像の腹筋対決だ。

じつは金剛力士立像の大元はギリシャ神話最大の英雄・ヘラクレスだという説がある。西側世界のヒーローが、アレクサンドロス大王の東征以降、インドや中国の仏教文化と融合し、日本へと流入して今の金剛力士像になったというのだ。その元祖ヘラクレスと、東方の末裔・金剛力士立像の誌上腹筋対決が上の画像である。

『週刊ニッポンの国宝100』2号の説明によれば、ヘラクレスは「たくましく青年らしい理想的な筋骨だが、半神半人でありながら人間と一寸かわらぬ肉体造形」、金剛力士立像は「生きているかのような肉体表現を追求しながらも、人体とは明らかに異なる超常的な筋肉や動きを誇示している」と解説している。

イタリアと日本のマッチョ対決。あなたの好みはどちらだろうか。

『週刊ニッポンの国宝100』2号「東大寺金剛力士立像・松林図屏風」(小学館)

 

取材・文/まなナビ編集室 写真協力/小学館