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今は第4のグローバリゼーション~そもそも人類史はグローバル

湯沢先生

学習院大学名誉教授の湯沢威先生

グローバリズムが進む一方で、イギリスのEU離脱やトランプ大統領の登場など、それを押しとどめるかのような動きのある現在。「今は100年後の人たちから、世界史の転換点だったと言われるかもしれない状況」と語る学習院大学名誉教授の湯沢威先生。なぜなら現在進行中のグローバリゼーションは今までにない規模であるからだ。

グローバリゼーションを推し進めるもの─技術・経済・フィクション

「“グローバリゼーション”という言葉が経済や歴史の用語として使われるようになったのはそれほど昔のことではないんです。アメリカの歴史学者ケネス・ポメランツが『大分岐-中国、ヨーロッパ、そして近代世界経済の形成』を著した2000年代以降、この言葉が使われるようになったのです」

そう語るのは、学習院大学名誉教授の湯沢威(たけし)先生。「グローバリズムと現代」と名づけられた学習院さくらアカデミーの特別講座の中での話である。

湯沢先生によれば、グローバリゼーションは「技術」「経済」「フィクション」などの要因によって突き動かされるのだという。「フィクション」とは何かというと、偶像や宗教、国家、経済信用、規範や制度などをいう。

大航海時代へさかのぼると

私たちがいまイメージするグローバル企業といえば、Googleやアップルなど、IT技術に支えられた企業だ。ITの発展と普及にともなって、私たちは瞬時にして地球の反対側の情報やサービスに接することができるようになり、世の中は驚くほど便利になった。そのスピードの速さは私たちの予想をはるかに超え、怖さを感じるほどだ。

グローバリゼーションは、これまで次のようなことを引き起こしてきた。
多様な民族との交流や多様な文化の享受。
原材料を世界から調達し、多様な製品が世界へ販売。
市場の拡大や自由な競争。それによる経済の活性化。
経済規模の拡大追求。具体的には大量生産、大量消費。
世界的な分業の推進により、多国籍企業の活躍。

考えておきたいのは、経済圏が世界的に拡大するこのような事例は、「グローバリズム」という言葉が誕生するはるか以前から、幾度もあったということだ。

「前グローバリゼーションともいうべき第1のグローバリゼーションは15~17世紀にありました。ポルトガル、スペイン、イギリスといったヨーロッパの国々が海洋進出し、世界中からじゃがいも、トマト、コーヒー、たばこ等を持ち帰り、それらはやがて人々の生活に浸透したのです。これはコロンブス交換と呼ばれるもので、明らかなグローバリゼーションと言っていいでしょう」(湯沢先生。以下「」同)

19世紀は綿花・石炭・鉄道、20世紀は電気・石油・自動車

そして第2のグローバリゼーションは19世紀に起こったという。そう、イギリスの産業革命の結果もたされたものだった。

「第2のグローバリゼーションは、産業革命を契機に起こったヨーロッパ先進国の工業化です。先進国は生産と販売のネットワークを拡大するため、アジアやアフリカの植民地化を競って推し進めました。この植民地争奪戦争は19世紀末からピークに達しました」

そして、20世紀初頭、世界経済を牽引する新興産業が登場した。自動車産業や、電気・石油などのエネルギー産業などがその中心である。

本格的なグローバリゼーションの波は1910年代に到達しますが、それは第3のグローバリゼーションと呼ぶことができるでしょう。当時の〈世界のGDP(国内総生産)に対する輸出入額の比率〉を見ると、1900年を迎える頃から飛躍的に増加し、1913年にピークを迎えています。この頃は旧産業から新産業への転換が起こり、あきらかに新しい工業が世界経済の基本になったのです。

交通・通信手段の飛躍的な発展も見られ、世界の経済のネットワークは緊密になっていきました。ご承知のように、この時に第1次世界大戦が起こり、その後1929年に起こった世界恐慌を契機に、各国は保護貿易に走り、第2次世界大戦に突入することになります」

上位8名が世界の下位36億人分の資産を

「そして第4のグローバリゼーションが起こっているのが現在です。いうまでもなくITなど情報産業の飛躍的な発展がそのベースになっています」

このように技術革新によって新しい産業が生まれ、より大きな市場を求めてグローバル化が進む。それは押しとどめることのできない歴史的な必然だと、湯沢先生は語る。しかし、大きな弊害もある。

「ひとつは世界を画一化することで民族の歴史や文化といった多様性が失われること。もうひとつの問題は格差の拡大です。世界の上位8名が世界の下位の人口36億人分に匹敵する資産を所有しているという報道もありました(国際NGO『オックスファム』の報告書による)」

多国籍企業の動きは現地国の利害を超越する。現地の事情などお構いなしに大きな工場を閉鎖すれば雇用不安が起こる。また、技術革新で産業構造が変化すれば、対応できずに取り残された人々には不満がくすぶる。その結果、当然のこととして反グローバリズムの動きが生まれる。

第2次世界大戦前の状況を再現することになるのか

「第2次世界大戦の前にも似たような現象が起こりました。第3のグローバリゼーションのピークが1913年であり、1914年に第1次世界大戦が勃発したのは単なる偶然だったのでしょうか。第1次世界大戦後、各国は保護主義に向かい、やがて第2次世界大戦が始まりました」

グローバリゼーションの波は常に外からやってくる。それに対し、人間は多様な個性を持っている。その多様性にグローバリズムはどこまで対応できるのか? 

「グローバリズムが進んだ末にブレグジット(イギリスのEU離脱。Britain×Exit から)やトランプ大統領が登場し、保護主義の流れが強まりつつある今の流れは、第2次世界大戦前の状況にかなり似ていると思いませんか」

悲劇をくり返さないためには

現在進行中の第4のグローバリズムが、紛争や世界大戦といった悲劇に進まないためにはどうすればいいのか?

「グローバリズムではなく、コスモポリタニズム(世界市民主義)に向かうことです。わたしたちが意識を変えるのです」

コスモポリタン的人間について、文化人類学者のナイジェル・ラポートは「属性や階級などと関係ない、各人の個性の尊重」「既存の伝統、イデオロギー、社会の拘束を受けない文化的自立」「個人はどのような思想信条を持つ法的権利をも持つ」と記している。

「真のコスモポリタニズムは何かというのは、確かに難しい問題です。しかしグローバリズムから反動としての保護主義、そして戦争へという100年前の悲劇を繰り返さないためにも、常に問い続けていく必要があると思います。かつてマルクスは『万国の労働者よ、団結せよ!』と呼びかけましたが、いまや『万国の市民よ、団結せよ!』と呼びかけたい」

講座修了後、グローバリズムについて熱心な質疑応答があったが、それについては次の記事「グローバリズムで世界が進歩する?格差が拡大する?」に掲載する。

*秋に湯沢威先生による4回シリーズのグローバリズム講座も開催予定。

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文/小野千賀子 写真/小野千賀子(講座風景)、(c)peshkov、(c)Syda Productions / fotolia