経済学で人間は合理的に行動するはずだが
立命館土曜講座第3198回のテーマは、「『ココロ』の経済学─行動経済学から読み解く人間のふしぎ」。講師は、京都大学経済学部教授の依田高典先生だ。
「伝統的な “経済学” は、 人間は経済人(ホモエコノミカス)で、合理的で感情に左右されない存在だとしてきました。しかし人間は “ココロ” を持つ生き物で、想定どおりには動かない。感情や心があるからこそ、必ずしも合理的には行動しないのです。その点に着目し、“ココロ” を取り戻す経済学として誕生したのが “行動経済学” です」
その中心となった学者のうちの一人が、ハーバート・サイモン(Herbert Simon、1916-2001)。人間の合理的な意思決定が限定的なものだと説いたアメリカの学者で、1978年にノーベル経済学賞を受賞した。また2002年、心理学者のダニエル・カーネマンがノーベル経済学賞を受賞し、“行動経済学” はいっきにメジャーとなった。
まずは人間の “ココロ” の癖を知ることから、行動経済学は始まるという。
人間は知らず知らずのうちに “癖”、つまり “バイアス” によって行動をしているのだという。「行動経済学で一番大事な概念は “バイアス” です。なかでも “現在性バイアス” と “確実性バイアス” を知っておけば、行動経済学のイロハが身に付きますよ」と依田先生。
たとえば、ラッキーなことにお金がもらえると仮定し、“時間” と “確率” に焦点を置いて人間の “こころの癖” を考えてみよう。
1万円少なくてもかまわないという感情
この質問に、あなたはどちらを選ぶだろうか。
今すぐもらえる10万円と、1年後にもらえる11万円。
あなたはどちらを選びますか?
じつは、今すぐ10万円をもらいたいという人が圧倒的に多いという。しかし次の質問となると、答えが変わってくる。
1年後にもらえる10万円と、2年後にもらえる11万円。
あなたはどちらを選びますか?
時間差は同じ。もらえる額も同じ。違うのは、今すぐか1年後か、というだけ。しかしこうなると、2年後に11万円を受け取るほうを選ぶ人が多くなるという。
これは、 “いま” という瞬間にプレミアを付け、金額は1万円少なくてもかまわないという感情が発生したからだという。これを行動経済学では、“現在性バイアス” と呼ぶ。
80%VS100%、20%VS25%、どっちがトク?
さて、次の質問はどうだろうか。
80%の確率で4万円が当たるくじと、100%の確率で3万円が当たるくじ。
あなたはどちらを選びますか?
きっとあなたもそうだろうが、金額が少なくても確実にもらえるほう、つまり、100%の確率で3万円がもらえるほうを選ぶ人が多い。しかし、この確率が下がってきたらどうだろう?
20%の確率で4万円が当たるくじと、25%の確率で3万円が当たるくじ。
あなたはどちらを選びますか?
こうなると金額の高い20%のほうを選ぶ人が大多数を占めてくる。賞金から見た確率比率は80%:100%=4:5、20%:25%=4:5と同じだが、100%という確実性に人間は弱い。
ここから読み取れるのは、人間はリスクを嫌い、確実性を重視するということ。これを行動経済学では、“確実性バイアス”と呼ぶのである。
「つまり人間は “現在” という瞬間を大切にし、“確実性” を選ぶ傾向を持っているのです」
ダイエットをしているのに目の前のケーキの誘惑に勝てない人は、この “現在性バイアス” の大きい人なのかもしれない。依田先生によれば、行動経済学は自分のこうした“ココロの癖”に気づいて、自分の人生をよりよい方向に変えていくために存在するのだという。
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取材講座データ | ||
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「『ココロ』の経済学─行動経済学から読み解く人間のふしぎ」 | 立命館大学土曜講座 第3198回 |
文・写真/むらたゆかり