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世界的ブームの Bonsai 超基礎とホメポイント

盆栽キュレーター

藝術学舎「日本盆栽−小さな巨木」講座

講座名にある「小さな巨木」という言葉にしびれる。“Bonsai” として世界中で愛好者が急増している盆栽を深く楽しむための講座が京都で開かれた。高さ数十センチに封じ込められた世界観とは──。マニアックな小さな世界に思われる盆栽が、天の川のように雄大に見えてくる。

盆栽を観る楽しみ方を探す

「藝術学舎」は、京都造形芸術大学が2010年からスタートさせた新型のアートカレッジだ。「社会人が会社や家庭と両立しながら本格的に芸術を学ぶことができる」ことを目的に、東京・明治神宮外苑キャンパスにおいて始まった。その後、2012年に大阪(梅田駅前)、昨年には京都市左京区北白川の瓜生山(うりゅうやま)本学キャンパスでも開催されるようになった。

「煎茶空間の研究」「はじめての3Dプリント ライノセラス入門」や、「無敵のアクリル画『三美神(三体像)』をイメージして描く」などマニアックな講座メニューが特色で、今回受講したのは「日本盆栽−小さな巨木」講座(二日連続講座の初日を受講)。講師は、日本で唯一の盆栽研究家・川崎仁美先生である。

まず驚いたことは、講座が座学であったことだ。てっきり、盆栽の講座というからには実物を見て、実技をするものだと思っていた。川崎先生に伺うと、次のような返事が返ってきた。

「“盆栽を楽しむ” というと、“盆栽を育てる” ことだと思い込む人が多いでしょう? でもそれでは、こんなに面白いものなのに、仕事や家事で忙しい人は楽しめないものになってしまいます。でももうひとつ、”盆栽を観る” 楽しみがあるんです。盆栽を鑑賞する楽しさ面白さをもっと広げたいんですよ」

日本で唯一の盆栽研究家は現役大学院生

川崎先生は、京都工芸繊維大学に在学する現役の大学院生でもある。18歳から盆栽の世界に入り、21歳で「これで生きていく」と決めて、盆栽のキュレーターとしての活動を始めた。卒業論文では絵巻物の中に描かれた盆栽について研究し、若くしてその道の第一人者(もしくは開拓者)となり、現在は盆栽を広める大使としての活動に勤しんでいる。

川崎先生は、盆栽は “生き物” であり、“芸術品” だという。鑑賞側から見れば、“嗜好品” ともいえる。では、どこをどう楽しめばよいのだろうか。

盆栽とは、器に入った植栽のこと。

最近、「苔玉(こけだま)」が流行っているが、これもまた「盆栽」の一種であると川崎先生は説明する。

そもそも「盆栽」の「盆」とは器であり、「裁」とは植栽のこと器に入った植栽が、自然への敬意をもって山水の形を表すものが「盆栽」なのだ。その中には、一年中青い葉をつける松・柏・杉などを育てる「松柏(しょうはく)盆栽」や、カリンやもみじなど広葉樹を育てる「雑木(ぞうき)盆栽」、山野草や苔をつけた「草もの盆栽」がある。

盆栽のチャンピオン「松柏盆栽」

なかでも松・柏・杉など「松柏盆栽」が、盆栽の最たるものだ。古ければ古い方がいいという盆栽の骨董的価値観を叶えてくれるのが、この盆栽。松であれば香川県高松市の鬼無(きなし)の松や、北海道の豪雪地帯に育つエゾマツなど、ご当地ものを愛でる楽しみがある。

柏は真柏(しんぱく)のことで、ヒノキ科に属するミヤマビャクシンを指す。日本では、高山や海岸沿いの崖などに自生している。この植物の盆栽がまた、味わい深い。幹や枝を白骨化させた「神(ジン、先端部分)」「舎利(シャリ、幹の部分)」と呼ばれる部分が古木の風情を漂わせ、盆栽に風格を与える。コンテストなどでも評価される、人気のある樹種だ。

華やかな魅力の「雑木盆栽」

「雑木盆栽」になると、雰囲気が変わる。もみじなど季節による移り変わりを楽しめる「葉もの盆栽」、盆梅・皐月盆・盆藤など花を咲かせて楽しむ「花もの盆栽」、カリンや柿など結実を楽しむ「実もの盆栽」など、雑木盆栽は楽しみの幅が広い。樹齢は松柏盆栽に比べると短いものが多いが、季節感を楽しめるのがよさだという。

10cm以下の極小サイズも

以上は「樹種」による分類だ。そのほか盆栽を観るポイントとしては「樹形」や「サイズ」などがある。

樹形は、「吹き流し」や「懸崖(けんがい)」、「模様木」や「寄せ植え」など様々な形があり、盆栽家たちはその木の性質に合った形に、樹形を整えていく。

サイズも重要である。大物は40cm以上、中品は40cm以下、小品は20cmまでの棚に収まる小さめサイズ。ミニや豆盆栽となると10cm以下の極小サイズとなる。

10㎝以下の極小サイズを楽しむミニ盆栽

知ってトクする、盆栽の褒めポイント

鑑賞して楽しむためには、評価ポイントも覚えておきたい。

まず「根張り」。板状になっている「板根(ばんこん)」と呼ばれる部分の根の張り具合を見る。自然の状態ではうまく四方八方には伸びない。盆栽の場合は、人が手を加え、バランスをとる。

板状の板根が印象的な根張り

次に「立ち上がり」。根から幹の立ち上がり部分のダイナミックスさ、足元からの古さを見る。

枝のバランス良い配置がポイントの枝ぶり

枝張り」はわかりやすい。枝がバランス良く配置されているかどうか、だ。しかしそのポイントが面白い。枝のバランスとは、幹がいかに見えやすいように配置されているか、なのだ。やはり「立ち上がり」が大事であり、その立ち上がりをアピールしながらもいかに自然に枝を見せるかに、職人の腕の見せ所があるのだという。

そして「こけ順」。こけは、「木毛」と書く。足元はしっかり太く、そして先端に行くほどに細くなるように作っていく。

「盆栽は上から見るな」はなぜ

「盆栽は上から見てはいけません。下から上へあおぎ見るもの。その時、盆栽が “巨木に見える” 瞬間があります。頭でっかちの盆栽ではそうは見えない。巨木に見えながら、なおかつ小さく作る。そこに、盆栽の醍醐味があります」(川崎先生)

盆栽は、樹齢と大きさが比例しない。樹齢300年を超える盆栽だとしても、大きければいいというものではない。小さくなければ盆栽としての評価にはつながらないのだ。小ささをキープすることは、時間と手間の結晶である。どれだけ気配りをしてきたか、ということの証明となる。そこに、盆栽の妙味があり、観て楽しむポイントがある。

そのほかにも、盆栽を楽しむポイントがいろいろに紹介された。まずは、これらの基本となるポイントをもとに、実際に盆栽を「鑑賞してみる」。いくつもの盆栽を実際に観て楽しむことにより、奥深い盆栽の世界は広がっていく。川崎先生が広めたいという「盆栽鑑賞」。その楽しみ方が垣間見える。

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〔今日の名言〕「盆栽は、”観る”楽しみがあります。盆栽を鑑賞すること、その楽しみをもっと広げたい」。
〔受講生の今日イチ〕 受講生の方は、通信教育部の方と一般受講の方がいた。積極的な質問が多く、興味を持って受講されている様子が伝わってきた。

取材講座:「日本盆栽ー小さな巨木」(京都造形芸術大学・藝術学舎瓜生山キャンパス)
文・写真/植月ひろみ