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世界初を送り出す開発者「イノベーションはテーマがすべて」

阪根社長

セブン・ドリーマーズ・ラボラトリーズ(株)代表取締役社長、阪根信一氏

世界初の全自動洗濯物折りたたみ機『ランドロイド』。その開発者である阪根信一氏(セブン・ドリーマーズ・ラボラトリーズ(株)代表取締役社長)は、そのほかにも世界初の製品を次々世に送り出している。阪根氏は「イノベーションを起こすにはテーマの選び方がすべて」だと語る。そこにあるイノベーション哲学とは……。(前の記事「世界初の洗濯物折りたたみ機が生まれるまでの超絶苦労」)

テーマが正しくないと絶対にイノベーションは起こらない

東京電機大学で開催された社会人向け新教育課程開設記念フォーラムにゲストスピーカーとして招聘された阪根氏は、一言、「イノベーションを起こすにはテーマの選び方がすべてです」と語る。

阪根氏率いるセブン・ドリーマーズ・ラボラトリーズは次々と世界初の製品を世に送り出している。すでに事業化している2つの製品は、1本最高1200万円するという世界最高精度のゴルフシャフトと、いびきと無呼吸症候群を解消する世界初のワン・デイ・ディスポーザブル・デバイス『ナステント』だ。ここに、今春予約を開始した世界初の全自動洗濯物折りたたみ機『ランドロイド』が加わる。さらにこのほか、現在2つの世界初プロジェクトが進行中だという。

世界初を次々と世に送り出す阪根氏。どうようにして取り組むテーマを見つけ、選んでいるのだろうか。

イノベーションを起こすには、テーマの選定が最も重要です。極言すれば、正しくテーマを選べば必ずイノベーションが起こせるし、テーマの選び方を間違えるとイノベーションは起こらない

阪根氏はそう断言する。そして、そのテーマの選び方の基準として、次の3つのクライテリア(判断基準)を挙げた。

(1)世の中にないものであること
(2)人々の生活を豊かにするものであること
(3)技術的ハードルが高いものであること

新事業を始めようとするとき、多くの会社は今までに開発したものの応用や得意な事業領域で始めようとするが、阪根氏はそれには一切こだわらない。「シーズ(持っている技術やノウハウ)よりニーズ(切望されているか)」と言い切る。

テーマを決めるときには、現在持っている技術リソースや人材リソース、もしくは得意な事業領域というものに一切こだわりません。その結果、ゴルフ、医療機器、家電というまったくバラバラの事業領域のテーマが事業化しています。進行中の2つも同様です。先に挙げた3つのクライテリアがすべてなのです」

誰かがやっていたら絶対にやらない

「とくに〈世の中にないものであること〉。これはイノベーションを起こすうえで当たり前のことです。誰かがやっていたことをやってもイノベーションにならない。まず誰もやっていないことを探さなければいけません。

こんなものがあればいいなあと、いろいろなアイデアが生まれても、世界中で誰かがやっていたら、私たちは絶対にやらない。だから思いついたらまず論文・特許サーチをします。すると、ほとんどのケースでは残念ながら世界中で誰かがやっています。でもあきらめずにこのプロセスを繰り返していきます。

だいたい思いついたアイデアの99%は誰かがやっています。しかし1%は誰もやっていない。100個思いつけば、1個は誰もやっていないというテーマに巡り合えます。私たちが2年間かかって一番最初に巡り合えたのが、衣類自動折りたたみ機というテーマだったのです。2005年のことでした。

これはいいんじゃないかと思い、翌朝さっそく会社で論文と特許サーチをしたら、ひとつもない。唯一、当時の三洋電機の発表した30年後の未来(2035年の暮らし)の中に洗濯物自動折りたたみ機と書いてあったのが引っ掛かり、必死に調べたのですが、何の開発もしていませんでした」

物理的に不可能なもの以外はあきらめない

「テーマを決めた後は、物理的に不可能ではない限りは、私は絶対にあきらめないと決めています。あきらめずにやり続ける。これがイノベーションを起こすために重要なことです。空飛ぶスニーカーを開発したいといった物理的に絶対に無理なものでなければ、必ずできるはずです。もちろん開発には時間とお金がかかりますから、大学の研究者なら研究開発費用を申請する、ベンチャー企業なら資金調達する、大企業なら上層部を説得して予算を獲得するなどの努力が必要ですが、あきらめなければ必ずできます。

イノベーションを起こそうとしてテーマを見つけたら、最初には反対意見しか出ません。止めようとする人が周りにいっぱい出てくる。でも反対されればされるほど、絶対にいいテーマだと思ってください

『ランドロイド』もそうでした。洗濯物折りたたみ機は誰も手がけていないことがわかった。マーケットリサーチの結果でも、これができたら売れるよね、という結果が出た。で、テーマとして採用した。そこで、日ごろから新しいことをやりたいと言っている技術者を集めて『これをやるぞ』と言ったところ、反対しか出ない。『2年間探しに探してやっと人がやっていないテーマを見つけたんだぞ』と言うと、『世界中の名だたる大手家電メーカーがやっていないんですよね』『ってことはできないってことですよね』などと返してくる。そもそも議論がかみ合わない。

しかしこちらもあきらめずにゴールを説明していくと、何となくイメージがわいてきて、やろうということになる。しかし技術が非常に難しくて、5年たっても6年たってもまともなものが全然できあがってこない(別記事「世界初の洗濯物折りたたみ機が生まれるまでの超絶苦労」)。どんどん社員も辞めていく。研究者だけではなく、財務部長やすでに事業化している他事業の開発チームなども文句を言ってくる。

しかし、世界中で洗濯物自動折りたたみ機を作ろうと発想した人は、けっして私ひとりだけではなかったはずです。絶対世界中にたくさんいたはず。しかし結局、十数年後に私たちしかこの技術に成功できなかった理由は、彼らはどこかでつぶされたんです。大企業だったら、研究開発部長に『お前3年やってモノにならなかったんだからやめとけ』とか、『これ以上やったら俺がクビになるからやめてくれ』とか、いろいろな外的要素であきらめざるをえなかった。ですから、反対意見が多ければ多いほど、やり切ったときにオンリーワンになれる確率が高い。これを人は〈イノベーション〉と呼んでくれるわけですね。

テーマこそがイノベーションになるかどうかを決定する理由はここにもあります」

イノベーションにおける哲学とは

開発に際して必要なのは「哲学」だと阪根氏は語る。同フォーラムで講演した東京電機大学工学部先端機械工学科教授の清水康夫先生も、イノベーションに必要な4つのひとつに「本質を洞察する哲学」を挙げていた(「電動パワステ開発者が語るイノベーションの4つの鍵とは」)。なぜ「哲学」なのか。阪根氏はこう語る。

「私は『ランドロイド』のような家電を開発しているので、メカトロニクス(電子機械工学)専攻ではないかと思われることも多いのですが、じつはアメリカの大学院で化学の博士課程を出ています。専門は熱力学で、メカトロニクスは専門外なのですが、大学院で得た経験が大変役立っています。

入学して間もない頃に、研究室の指導教官から『なぜアメリカで博士号のことをPh.D.(Doctor of Philosophy)というかわかるか』と質問されました。直訳すると「哲学博士」という意味です。なぜかと聞くと『研究開発で新しいものを生み出すということは、前人未到の暗闇の世界に踏み出すことだから』と言われました。

『後ろを振り返ると、今日現在までの解明された明るい世界や論文や教科書を読めばわかる、すでにわかっている世界がある。しかしここから先、今日この日現在から先の世界は、真っ暗闇の世界。その中の見えないゴールに向かって一歩を踏み出すことが研究開発をしていくということ。優秀な研究者ほど最短距離でゴールをつかむ。博士課程で研究開発をするということは、解明できていないことを解明する、これをあるテーマをもって経験するということだ。それを一度会得したら、どの分野でもそれをやることができる。君はこの熱力学という分野で生きていくことはたぶんないだろう。だけどここでPh.D.を取ることができたら、その経験をもって世の中にないものを作り出したり、世の中にない自然科学を解明したりということができるようになる。その〈哲学〉を学ぶのだ』
そう言われたのです。

その時は意味がよくわかりませんでしたが、Ph.D.を取ったとき腑に落ちました。そのおかげで今、イノベーションを起こすということに挑戦できているのかな、と思います」

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取材・文/土肥元子(まなナビ編集室)