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一線を越えた・越えないの上を行く大人の男女関係とは

人気タレントから始まり、政治家、お笑い芸人、人気アーティスト、大物落語家…と、2年連続不倫イヤーのニッポン。これまでタブー視されてきた不倫が、近年なぜここまでメディアを騒がせるようになったのか。『ウルトラ不倫学』(主婦の友社刊)の著者であり、神奈川大学で「大人の人間関係論」講座を開催している同大人間科学部教授・杉山崇先生に聞いた。

不倫をエンターテインメントにしたあの芸能人

「在京キー局が放送した番組内容の中で『不倫』が含まれる部分の時間の集計グラフを調べたところ、2016年の1月から爆発的に増えているのだそうですね。これは、ベッキーさんとゲスの極み乙女。の川谷絵音さんの不倫が明るみになった頃と重なります。あまりの過熱ぶりに食傷気味の人もいたと思います。

でも、もし視聴者がそっぽ向いて数字が伸びなかったら、テレビも雑誌も扱うのを止めるんです。つい注目してしまう私たちも不倫報道を加熱させている側に加わっているんですよ」

そう話すのは、神奈川大学人間科学部教授の杉山崇先生だ。神奈川大学の公開講座「大人の人間関係論」、この日のテーマは「不倫の境界線」。杉山先生はベッキー騒動を境に画期的に変わった、と話す。

「ベッキーさん騒動以前は、“不倫”というと、見てはいけないものを見ている感覚があったと思うんです。でも、ベッキーさんと川谷さんがいい意味でも悪い意味でも面白すぎたんですね。LINEのやりとりが続々と明らかにされ、いろんな嘘がバレてしまった。どうやら不倫というものは、突っ込めば突っ込むほどエンターテインメントになると報道各社が気づいてしまったんですね。不倫を扱えば視聴率や部数がとれる!と。

でも、考えてみれば、昼ドラだって、昔から不倫をテーマにしてきたわけです。それほど“道ならぬ恋”は私たち人類の飽きることないテーマなのです」

たしかに2016年から2017年にかけては『昼顔』『あなたのことはそれほど』『奪い愛、冬』『屋根裏の恋人』と、不倫ドラマや映画が軒並みヒットした。過去を振り返ってみても『金曜日の妻たちへ』『失楽園』『不機嫌な果実』『セカンドバージン』…と、不倫をテーマにした作品は枚挙に遑がない。不倫は“燃える”テーマであると同時に、“萌える”テーマでもあるのだ。

「肉体関係がないからかえって許せない」大人の不倫

私たちがふだんワイドショーなどで目にするのは、“つまみ食い”みたいな不倫だが、生涯その人と添い遂げる“添い遂げ不倫”もあるという。

「戦前、女優としても活躍した川上貞奴(かわかみさだやっこ)が“添い遂げ不倫”の例です。NHK大河ドラマにもなりました(『春の波涛』1985年放映)」

川上貞奴は、日本一の芸妓と謳われ、日本初の女優ともいわれる人物。芸妓であった貞奴は、知り合った書生の桃介と恋に落ちたが身分の違いから断念。桃介は政略結婚で福澤諭吉の次女・房の婿養子に入り、貞奴も「オッペケペー節」で一世を風靡した興行師・川上音二郎の妻となる。しかし夫の死後、再び桃介との関係が始まり、生涯添い遂げる。

「ドラマを見た当時、私は小学生でしたが、すごく印象的なシーンがあって、福澤桃介の妻・房さんが、“桃介さんと彼女の間に、肉体関係があったらまだ許せたけど、なかったから許せない”というんです。桃介さんほど地位のある人なら愛人のひとりやふたりいてもしょうがないと思えたが、肉体関係がない方が逆に悔しいという場面があって、なるほどと。大人とはそういうものなんだと思いました」

ロバート・デニーロとメリル・ストリープが共演した映画『恋におちて』(1984)でも、妻に責められた夫が「体の関係はない」と言うと、妻は「その方が罪が重いわ。本気だってことでしょ。肉体関係があったほうが許せるのに」と返すシーンがあった。昨今の「一線を越えた」だの「一線を越えない」だのを大きく超えた、大人の恋愛がここにある。

“添い遂げ不倫”に必要な3つの条件

杉山先生をしてうならせる、この“添い遂げ不倫”。成立するには3つの条件があるという。

「ひとつは、会いたいけど会えない時間が長いという『欲求の固着』が生じていること。長い間手に入らなかった何かというのは、これが欲しくて欲しくてたまらないんだというマインドまで固着させてしまいます。手に入らないというその時の悔しい思いが忘れられず、もういらなくなっているにも関わらず、いつまでも欲しいという癒着が起こるということです。

もうひとつは、会えるチャンスがあれば会うという『行動パターンが定着』していること。貞奴さんと桃介さんは結婚する前は、書生さんと芸者さんの見習いという立場で、みんなから反対されて会ってはいけない関係でしたが、それでもいろいろな人の目を盗んで会っていました。なので、会えるチャンスがあれば会うという行動パターンがふたりの間で確立されていたわけです。だから、会えないという障害がなくなったら、当たり前に会うわけです。

そしてもうひとつ。これは身も蓋もありませんが、『経済力と社会的地位』があること。とくに桃介さんは、当時とは違う高い社会的地位と圧倒的な経済力があるので、貞奴さんとの関係が明るみになったとて、立場が悪くなったり何かを失う心配はありませんでした。

もしこのどれかひとつでも欠けていたら、ふたりの関係は成立しなかったと思います。ただし、このふたりの関係は桃介さんの奥さんがそうだったように、不幸になる人が出てしまった。誰かが不幸になる不倫はよくないと個人的には思います」

◆取材講座:メンタルヘルス・マネジメント講座「大人の人間関係論」vol.5「不倫の境界線」(神奈川大学みなとみらいエクステンションセンター/KUポートスクエア)

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取材/辻本幸路 文/まなナビ編集室 写真/(c)beeboys/fotolia