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ブラタモリに取り上げて欲しい富田林の防火の工夫

富田林寺内町の町並み(杉田家住宅・田守家住宅)

NHKの人気番組「ブラタモリ」では、城下町金沢の水路や商都大阪を支えた上町台地など、歴史都市がよく取り上げられているが、じつは大阪の富田林(とんだばやし)も台地上に築かれ、整備された水路をもつ、戦国期に形成された「寺内町」。その知られざるヒミツをたどる。

河岸丘陵の上の都市には堀が

歴史と建築と防災(!?)をテーマに探る立命館土曜講座「歴史文化都市の防災と建築史学」で、青柳憲昌先生(同大理工学部講師)が取り上げたのは「寺内町」富田林。

富田林は、大阪府南部、南河内と呼ばれる場所にある。浄土真宗寺院の興正寺別院を中核として形成されてきた寺内町だ。「寺内町」というのは戦国期の自治的な都市で、浄土真宗の門徒によって自衛のために形成された。

富田林は石川という川の河岸丘陵地帯に発展した。台地にあるので「台地型寺内町」と呼んでいるそうだ。このタイプの都市は、大阪をはじめ、富山県や石川県などに11都市あるという。

河岸丘陵の上に都市ができると、一方を川に守られているので防衛上有利となる。がしかし、反対側は防衛上の弱点となるため、堀が建設される。富田林も周囲は土塁と堀割で囲われていた。

斜面の角度は約13度、標高差15m

旧杉山家住宅(17世紀)の城郭風の「八棟造り」

柱が見える京都の町家は火事に弱い

富田林の歴史的町家は6軒・10棟が登録されていて、いずれも江戸時代のものである。青柳先生によれば、ここには様々な防災の工夫が見られるという。

木造家屋の最大の弱点は、燃えやすいこと。富田林の町家は、軒裏や柱が塗り込められている。これは城郭建築などによく見られるもので、防火対策として有効である。いっぽう京都の町家などでは表に柱の木材が見えていることが多く、火事に弱いとされている。

旧杉山家住宅(17世紀)のカマヤ(炊事場)。「煙返し梁」が見える

さらに、いったん火災になった場合の延焼防止のために、卯達(うだつ)や袖壁が設けられた。カマヤ(炊事場)にも「煙返し梁」と垂れ壁が設置されるなど、防火の工夫があちこちに見られるという。

また、台地状の都市は防衛には優れている反面、用水が確保しにくいという弱点もある。そのため街の中には、「背割水路」や「用心堀」が張り巡らされた。それは生活用でもあり、防火用としての目的も大きかった。

石川県金沢市の金沢城があるあたりもかつての寺内町であり、やはり都市の中には川から水が引かれ堀や水路が張り巡らされていた。

寺内町を例にとり、都市の建築と形成史が述べられたのだが、そこには防災に対する人々の意識がはっきりと見られるようだ。確かに、木造の建物にとって火事は怖い。地震や洪水などの災害も怖い。

都市の形成に災害への備えがあることは考えてみれば当然なのだ。けれど、これまでは「災害史」、災害が起きた歴史だけが語られてきていたのではないだろうか。そうではなく、災害から人々がどう自己防衛してきたのか、に青柳先生は注目している。

〔今日の名言〕 町中 くわへきせる ひなわ火 無用。江戸時代、富田林の防火の標語。
〔大学のココイチ〕立命館大学衣笠キャンパスでは、野良猫(大学猫?)にエサやりをする専門のサークルがあるらしく、公園でひなたぼっこをする猫が可愛かった。

〔おすすめ講座〕立命館大学土曜講座

取材講座データ
「歴史文化都市の防災と建築史学」 立命館大学土曜講座 第3194回 2017年2月25日

2017年2月25日取材

文/植月ひろみ 写真/青柳憲昌