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パンがふくらみ、アンチエイジングに有効な廃棄物は

廃棄物の有効利用は、ビジネスにおける重要課題だ。費用をかけて処理していたものが、逆に利益を生むようになったら一石二鳥だ。龍谷大学大阪梅田キャンパスでおこなわれた「キチンナノファイバー」のセミナーは、廃棄物が宝の山へと変わる内容だった。

小麦粉の生地が劇的に強化

本セミナーは、「鳥取県と龍谷大学との連携に関する協定」(2010年締結)に基づき、龍谷大学、鳥取県及び鳥取大学が連携強化を図ることを目的に企業向けにそれぞれの技術やノウハウを発表するもので、4つの講演がおこなわれた。

そのひとつ、鳥取大学の上中弘典先生による「キチンナノファイバー」のセミナーは、まさに廃棄物が宝の山へと変わる内容だった。

松葉ガニや紅ズワイガニが特産の鳥取県では毎年、大量のカニ殻が廃棄されている。この廃棄されたカニ殻から抽出された、宝物のような半透明のジェル状の物質、それが「キチンナノファイバー(NF)」だ。

講師の上中弘典(かみなかひろのり)先生(鳥取大学農学部生命環境農学科准教授)によると、キチンナノファイバーは強い粘度をもち、しかも加工しやすいという。そこから期待されているのが、まず、食品への応用だ。具体的には、キチンナノファイバーを添加したパンである。

キチンナノファイバーは粘度が高いことから、小麦粉の生地の強さを劇的に強化できる。たとえば強力粉にキチンナノファイバーを混ぜてパンを焼いた場合、小麦粉の使用量を20%減らしても、減らす前と同じ膨らみのパンが作れるという。つまり食感や大きさはそのままに、摂取カロリーを減らすことができる。

さらに、低タンパク質の小麦粉食品など、さまざまな高機能性小麦粉食品を開発できる可能性もあるという。元は天然素材であるカニの殻だから、安心して食べられる。

実験室での上中先生

キチンナノファイバーのアンチエイジング効果にも驚かされた。キチンナノファイバーは半透明のジェル状。そのまま洗顔後に顔に塗りたくなるほどプルプルしている。まさかあのごつごつしたカニ殻から、こんなプルプルのものができるとは。

セミナーでは、ドロドロにやけどを負った犬の皮膚にキチンナノファイバーの元となるキチンを塗布したところ、つるりときれいに治癒した画像などが紹介された。

「創傷部に塗布すると炎症反応がおさまり、上皮、真皮層の再生が確認されました。またヘアレスマウス(毛が生えていないマウス)にキチンナノファイバーを塗布すると、上皮層やコラーゲンの増加が見られました」

すでにキチンナノファイバーを配合したコスメも発売されているそうで、今後ますますアンチエイジング分野でも注目を浴びていくだろう。

鳥取大学ではベンチャー企業を設立し新規事業を開始しているという。こうした産学連携事業は最先端技術のビジネス転用が主目的だが、最先端の情報満載で、ビジネスとは縁のない受講生も楽しめるものだった。

取材講座データ
「キチンナノファイバーの食品応用」 龍谷大学×鳥取県×鳥取大学ジョイントセミナー 2017年3月2日

文/和久井香菜子 写真/@mykeyruna/fotolia・上中弘典